映画

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(ジム・ジャームッシュ/2013)

ジム・ジャームッシュの新作は、世界のすべての神経が星空に集められたかのようなショットではじまる。すべてはこの澄み切った夜からしか生まれ得ないのだ、とさえ思わされるこの星空が回転をはじめ、レコードの回転と重なり、俯瞰でティルダ・スウィントン…

2013年ベストシネマ

年が明けてからこの記事を読むという方には、新年明けましておめでとうございます。一年の終わりの日にこの記事を開いたという方には、よい新年が迎えられますようにと、一年の始まりと終わりのご挨拶。さて、恒例の年間ベスト。例年20本に纏めるようにし…

『ホーリー・モーターズ』(レオス・カラックス/2012)

100年前に壊れたはずのオルゴールが突如メロディーを奏で始めたかのような、恐怖と驚きと、何より望みが託された映画。レオス・カラックスの待望の新作は、彼の作品がいつもそうであったように、再度、映画と対峙する「動機」を冒頭の画面に示す。リュミ…

『マーサ、あるいはマーシー・メイ』(ショーン・ダーキン/2011)

ショーン・ダーキンの処女長編『マーサ、あるいはマーシー・メイ』は、ただ其処に在ることの恐怖と不安を心理的な背景の説明を省いた、宙吊りのサスペンスとして描いている。この恐るべきデビュー作の設計において、ショーン・ダーキンの”説明不足”が、入念…

『ムーンライズ・キングダム』(ウェス・アンダーソン/2012)

ウェス・アンダーソンの新作は、何かを正そうとしたり、何かを変えようと主張する作品ではなく、登場人物のパーソナルな歴史が抱えてしまった悲しみを、それぞれが受け入れること、尊重すること、さらに調和させることへ向けて、映画設計の美学的な重きが置…

レオス・カラックス@ユーロスペース

『ホーリー・モーターズ』先行上映+レオス・カラックス登壇@ユーロスペースに行ってきました。朝7時半から並んだのもよい思い出です。大変なことになりましたが、テンションあがったね。『ポンヌフの恋人』のときは二晩前から並ぶ人がいた、というエピソー…

2012年ベストシネマ

年が明けてからこの記事を読む方に、新年明けましてオメデトウゴザイマス。まだ大晦日だよ、という方には、よい新年が迎えられますように。と一年の終わりと始まりのご挨拶。さて恒例の年間ベスト。2012年は新作公開作品と特集上映が質・量共に、近年に…

『ムーンライズ・キングダム』(ウェス・アンダーソン/2012)

ウェス・アンダーソンの新作。楽しみにしてる方が多いと思うので、分析的なことは書かず、内容にも踏み込まずに書こうと思う。ポータブル・レコードプレイヤーと双眼鏡(&猫)を片手に少年と少女は旅に出る。ぼくらが旅に出る理由。この世界から逃れるため…

『インポッシブル』(J・A・バヨナ/2012)

東京国際映画祭にてユアン・マクレガー&ナオミ・ワッツの『インポッシブル』。フアン・アントニオ・バヨナの作品は初めて見たのだけど、これがなかなか善戦している作品だった。映画はスマトラ沖地震による津波で離散した家族の再生を描いている。何もかも…

『スプリング・ブレイカーズ』(ハーモニー・コリン/2012)

東京国際映画祭にてハーモニー・コリンの新作。水着ギャルたちが狭い廊下で謎の集団逆立ちを披露する、ジャック・リヴェットがヘタレになったかのようなシーンから、いや、もっと以前に、ギャルが手で銃の真似事をしながら独特の擬音を発するシーンから、こ…

『アウトレイジ ビヨンド』(北野武/2012)

黒味の画面、耳をつんざくけたたましい金属音と共に始まる北野武の新作は、クレーンに吊り上げられた黒い車が示すどおりの真っ黒な傑作だった。海水が漏れるあの黒い車体のような重み、黒さ。ファーストショットでこれが傑作であることを確信させる黒さ。黒…

『ライク・サムワン・イン・ラブ』(アッバス・キアロスタミ/2012)

この作品に流れる時間のすべてが、いとおしい。舞台を日本に移したところで、キアロスタミの「道」へのこだわりは変わらないどころか、むしろそれは多面性を極め、乱反射のごとくスクリーンに投射される。もう一度キアロスタミの言葉を思い出そう。「道とは…

『ヘミングウェイ&ゲルホーン』(フィリップ・カウフマン/2012)

今年のカンヌで上映されたフィリップ・カウフマン待望の新作は、『存在の耐えられない軽さ』や『ヘンリー&ジューン』といった傑作を撮ったこの作家が、ニコール・キッドマンという稀代の女優を演出することで、演出家としての経年と経験の賜物とも思える、…

『ダークナイト ライジング』(クリストファー・ノーラン/2012)

「嵐が来る」「(世界の)秩序を取り戻す」と、まるで黒沢清の映画のような台詞さえ連発される『ダークナイト ライジング』の、”ボーン・イン・ヘル”の引力を悲劇的に昇華させた、漆黒の鉄の重み(ファーストカット以前に導かれる、このメタリックな重みの快…

『ダーク・シャドウ』(ティム・バートン/2012)

ティム・バートンの新作は、自身のフィルモグラフィーにおける符合と、作品内における符合と、それをブチ壊すティム・バートンの映画屋魂に溢れた遊び心が、痛快に炸裂した傑作だ。エヴァ・グリーンの痛快無比の狂おしさに泣き、ミシェル・ファイファー(年…

『星の旅人たち』(エミリオ・エステベス/2011)

「ここは星と風の道が交わる場所」。エミリオ・エステベスのこの野心作に繰り返し出てくる言葉「The Way=道」は、物語の進行と共にその意味(または意義)を粉々に断片化させていく。『星の旅人たち』が表出させる「道」とは、たとえばなんらかの信念や信仰…

レオス・カラックスとカイリー・ミノーグ 〜映画と観客の関係〜

これはカイリー・ミノーグがTwitterにアップしてくれた写真です。近頃はこの写真ばかり眺めてニヤニヤ幸せな気分に浸っています。レオス・カラックスとカイリー・ミノーグが手をつなぐ図だなんて、いままで想像できる人はいなかったでしょう。とてもスペシャ…

『Holy Motors』@Festival de Cannes 2012

ついに!レオス・カラックス『Holy Motors』のポスターが公開。公式にアップされた本編からの抜粋動画(22秒)、及び、カンヌのプレスキット(WildBunch公式サイトにてダウンロード可)から推測するに、これはかなりエッジの尖った作品であり、凄まじい作品…

『アナザー・プラネット』(マイク・ケイヒル/2011)

エレン・ペイジが大好きだと公言していた作品で、日本ではつい最近DVDスルーでリリース。こちらはラース・フォン・トリアーの『メランコリア』の惑星が鬱病的な(というか中二病的な・失礼!)光を放っていたのに対し、「アナザー・メランコリア」とでも…

『テイク・シェルター』(ジェフ・ニコルズ/2011)

新鋭ジェフ・ニコルズの『テイク・シェルター』は、不安神経症的な対象を極めて冷徹に捉えるカメラの、その距離と手法によって、それぞれ手法が違うながらも2011年に偶発的に発表された『アナザー・プラネット』(マイク・ケイヒル)や『メランコリア』…

『Les adoptés』(メラニー・ロラン/2011)

輸入DVDでメラニー・ロランの長編監督デビュー作。メラニー・ロランの処女作は『人生はビギナーズ』(マイク・ミルズ)やデビューアルバムのPVといった、直近の彼女の仕事からのフィードバックが明確に読み取れる作品だ。画面作りにおいては「KISS」(…

『マリリン 7日間の恋』(サイモン・カーティス/2011)

ミシェル・ウィリアムズの演じるマリリン・モンロー。この作品のスチールが出回った頃から、こっそり楽しみにしていた『マリリン 7日間の恋』が披露する、被写体や題材に対するあふれる敬意によって紡がれた、クラシカルかつ丁寧な演出に、ちょっと移入しす…

『グッバイ・マイ・ファーストラヴ』(ミア・ハンセン・ラブ/2011)

日仏学院「フランス女性監督特集」にてミア・ハンセン・ラブの新作。ミア・ハンセン・ラブの新作は、肌が肌としてフィルムに刻まれていることが、強烈な印象を残す(スクリーンで体験してよかった)。それはエリック・ロメールの画面が持つ肌の湿度とも、ま…

『フットルース 夢に向かって』(クレイグ・ブリュワー/2011)

あの素晴らしい『ブラック・スネークモーン』のクレイグ・ブリュワーの新作は、大ヒット作のリメイクという高い壁へのパーソナルな敬意を示しつつ、完全にクレイグ・ブリュワーの作品として、役者のアクションの一挙一動に落とし込めることに成功している。…

『ドラゴン・タトゥーの女』(デヴィッド・フィンチャー/2011)

例によって台詞を意図的に過剰にすることでフィルムに強度を加えていくデヴィッド・フィンチャーの新作は、前作『ソーシャル・ネットワーク』において、マーク・ザッカーバーグの致命的な失恋に導かれた、怒りにも似た動機、その劇的な人生のスピードが、し…

『Les bien-aimés』(クリストフ・オノレ/2011)

キアラ・マストロヤンニ、カトリーヌ・ドヌーヴ、リュディヴィーヌ・サニエ、ルイ・ガレルのオールスターキャストで描くクリストフ・オノレの新作は、これまでになく、役者の調子、撮影の調子、演出の調子、編集の調子が、画面に調和した愉快な作品だ。ハイ…

『Sorelle Mai』(マルコ・ベロッキオ/2010)

マルコ・ベロッキオの新作は、フィルムの何処を切っても強烈なパッション(情熱/受難)が炸裂していた『愛の勝利を』とは真逆といってもいい作品に仕上がっている。『愛の勝利を』を、この巨匠の抱えたコアが前衛的なまでに画面に展開された、ある意味近寄…

2011年ベストシネマ

新年明けましてオメデトウゴザイマス。さて恒例の年間ベスト。今年はいろんな個人的な事情から例年より映画館と離れざるを得なかった年だった。ただ同時にこれまで以上に一本一本の作品の熱量と腰を据えて相対できた年でもあった。映画に関して、というより…

『惑星のかけら』(吉田良子/2011)

2008年の桃まつりで上映された前作『功夫哀歌/カンフーエレジー』は、上映後の塩田明彦監督の爆笑トークと共に個人的にはとても忘れがたい作品で、上映中は勝手に笑いのツボに入ってしまい、特に謎の白装束軍団がスローモーションで登場するショットに…

第2回「ペドロ・コスタ特別講義」@造形大学

現在来日中のペドロ・コスタの特別授業ということで、昨年行われた第1回講義の感動を反芻しながら、いざ造形大へ。前回と違うのは一年前には知らなかった方を含む4人で造形大に向かえたこと。ささいなことだけど、いつの間にか自分を取り巻く関係性という…