『Les adoptés』(メラニー・ロラン/2011)


輸入DVDでメラニー・ロランの長編監督デビュー作。メラニー・ロランの処女作は『人生はビギナーズ』(マイク・ミルズ)やデビューアルバムのPVといった、直近の彼女の仕事からのフィードバックが明確に読み取れる作品だ。画面作りにおいては「KISS」(いい曲!)のPV、また、編集面においてマイク・ミルズからの影響を強く感じる。ライブハウスの楽屋裏のメイクアップから、メラニー・ロランがギターを抱えステージに上がり、カメラがどんどん引いて、ステージと客席の全体像を収めるファーストショットの長回しに早速ドキリとさせられる。また、セックスシーンにおける、女優の仕草や表情だけを丹念に切り取って編集する、親密な画面の出来栄えは、三者三様のエピソードというこの作品の構成が第一に考慮されているとした上でも、まず自分の知っていることをきっちり描く、という点で、とても好感が持てるものだった。メラニー・ロランは、あるインタビューの中で「アクトレスであり、ほとんど映画作家だとも感じている」、と自身のキャリアについて評していたが、なるほど、メラニー・ロランはそのワーカホリックな仕事ぶりの中で、それこそ彼女自身の言う「チーム」のように共同創作=ディレクションをして培ってきたことのフィードバックが、この作品には明確な形として表明されている。メラニー・ロランは、あれほどの美貌でありながら、目の下の傷跡をむしろ強調するように、わざわざ角度を調整してカメラに収める女優なのだ。『Les adoptés』においても、それは適切な場面で魅力的に撮られている(とはいえメラニー・ロランは本作が”自伝的”であることを否定している)。



『Les adoptés』は、歌う女と歌わない女による、ある姉妹の物語であり、他人同士で構成されたバラバラな「家族」が共生する物語だ。たとえば、映画の中で人物と人物が同じ部屋の中で画面外の声で会話をするシーンが象徴的なのだけど、この作品はモノローグとダイアローグとの間を自由に行き来できる、中間地帯を描いているように思う。モノローグとダイアローグを存在と関係と言い換えてもいい。だからこそ歌う女=メラニー・ロランの爪弾く音楽が其処に代入されることに、意義がある。また映像面においては、後半、随所に展開されるオーバーラップによる「存在の希薄化」も、この中間地帯への彷徨を描いているように思う。『Les adoptés』は、単純な物語の中で、世界が、どちらでもあり、どちらでもない場所に立っていること、そこで音楽を響かせることは、存在を越えていくことを示す。佳作ではあるが、現在のメラニー・ロランの立ち位置を明確にした作品として、また、これから様々な映画作家との「共同創作」によって、それがどう映画作家としての彼女にフィードバックされていくのか、見守っていきたい。


メラニー・ロラン「KISS」のPV。


追記*ちなみにメラニー・ロランは好きな映画作家として、ジェームズ・グレイポール・トーマス・アンダーソンペドロ・アルモドバルを挙げている。また最近感銘を受けた映画として、イジルド・ル・ベスコの姉マイウェンの『Polisse』を挙げている。


追記2*個人的に『Les adoptés』は、メラニー・ロランにもっと惜しみなく歌ってほしかったかな。そちらは今後に期待。