『アウトレイジ ビヨンド』(北野武/2012)


黒味の画面、耳をつんざくけたたましい金属音と共に始まる北野武の新作は、クレーンに吊り上げられた黒い車が示すどおりの真っ黒な傑作だった。海水が漏れるあの黒い車体のような重み、黒さ。ファーストショットでこれが傑作であることを確信させる黒さ。黒いスーツに固められた組幹部が集まる会議は、大島渚の『儀式』における座りの様式性のように、ズシンとした重みを感じる並びだ。銃撃戦の省略による黒味の挿入は、前作より暴力描写を控えたにも関わらず、北野作品においてかつてないほどの画面の惨劇の並びを見せる。非常階段に並んだ死体の数々を上から下に見せるショットの様式的な美しさ。そしてコノヤロー繋ぎだよコノヤローが見事だった前作に、より演出家としての画面の経年の深み=皺を与えたのが登場人物の顔と顔と顔だろう。『アウトレイジ ビヨンド』では、みんな本当になんて顔をしているんだ!と驚くばかりの顔が並べられる(本物にしか見えない。こえーよ)。男たちの顔に刻まれた皺が、とにかく美しくとにかく不穏にノワールなのだ。



ふいに画面の外からスゥーッと、フレームインしてくる無言の殺し屋たちの並び、マシンのようにひたすら手際のよい殺人、この面白さ。『アウトレイジ ビヨンド』において黒さは、重みと軽みの間を1ショットの中で頻繁に行き来する。バットマンがヒラリとさせる真っ黒なマントは、音の質感からしてかなり重そうだが、あのマントが重力を失ったような趣きが、この殺し屋たちの黒い衣装や銃にはある。まあ、相変わらず早いね、という話なのだけど、その早さはより経年の深みを増して凄みに達しているということだ(率直に言えばカッコよい!)。小日向文世のマスタープランとは言いがたい行き当たりばったりの危険な軽さも、黒味の重さの中だからこそ、速度をあげていく。彼の顔に映える独特の影が忘れられない。みんな大好き木村の顔は言わずもがな。むしろ木村の顔には女性的なものすら感じる。大友も然り。顔の影にも、その黒味の裏と表を行き交う更新がその都度あるのだ。『アウトレイジ ビヨンド』とは、黒味の重さと軽さの表裏を高速度で裏返していく傑作だ。しかしこれで完結だとしたらなんてカッコいいノワールな終わり方だろうか。エンドロールが始まった瞬間、思わず声を殺して「わーぉ!」と唸ってしまったよ。素晴らしい!!!