『スプリング・ブレイカーズ』(ハーモニー・コリン/2012)


東京国際映画祭にてハーモニー・コリンの新作。水着ギャルたちが狭い廊下で謎の集団逆立ちを披露する、ジャック・リヴェットがヘタレになったかのようなシーンから、いや、もっと以前に、ギャルが手で銃の真似事をしながら独特の擬音を発するシーンから、この作品は面白い。ひたすらに面白い。『ガンモ』から『トラッシュ・ハンパーズ』に至る、ハーモニー・コリンにしか作れない/作らない、いつもの下世話なハーモニー・コリン印満載の作品でありながら、また、水着ギャルたちの強盗のシーンを車窓からW窓枠越しに走りながら撮る、という刺激的すぎる映画の意匠をところどころに展開させながら、しかし『スプリング・ブレイカーズ』には、ハーモニー・コリンの用意したトラックの上でフリースタイルをかますようなスリルに満ちた役者たちの運動がいつにも増して開放的に刻まれている。総銀歯のジェームズ・フランコ(あんなイケメンなのに・笑)が、”『スカーフェイス』はリピートで流す。常にだ!”と水着ギャルたちにフリースタイルのようにかますシーンのように(『スカーフェイス』とHIPHOPの根深い関係)、近くにある物でひたすらボケをかまし続けるようなアッパーな演舞の面白さに満ちている。また水着ギャルたちが強盗のシーンを「再演舞」(フリースタイル)するシーンの、新たに書き加えられたかもしれないアクションの面白さ。ギャングスタを扱っているこの作品において、HIPHOPのトラックだけが延々と流れるシーンは示唆的に思える。その意味で『ジュリアン』における集団で皿を叩いたり様々な音でリズムを作って、フリースタイルのラップをかます、あのシーンの拡大解釈が『スプリング・ブレイカーズ』に繋がっているのではないだろうか。



ハーモニー・コリンが敬愛するレオス・カラックスは日本公開が待たれる『Holy Motors』においてパリの街にリムジンを走らせているが、ハーモニー・コリンはフロリダの町で水着ギャルたちを非常に魅力的にスクーターで走らせている。雨の夜の街灯や車のヘッドライトで照らされた水着ギャルたちが、空から降ってくる雨水を呑むシーンの美しさよ!プールサイドに置かれたピアノで水着ギャルたちがブリトニー・スピアーズを唄うシーンの美しさよ!”スプリング・ブレイク”という名の、いたずらっぽい悪の華が子守唄に反転する瞬間だ。そう、ハーモニー・コリンは一貫して「顔のない双生児が歌う子守唄」の映画を作ってきた。『ガンモ』の祈り、『ジュリアン』の子守唄、『ミスター・ロンリー』の修道女のダイブ、そして『トラッシュ・ハンパーズ』における「3人の小さな悪魔が壁を越えた」然り。「スプリング・ブレイクよ、永遠に!」。『スプリング・ブレイカーズ』において水着ギャルがピンクの覆面を被ることと、ラストがどういう展開(人数)を見せるかは、ハーモニー・コリンのブレのない主題と深く結びついている。ハーモニー・コリンが『スプリング・ブレイカーズ』で奏でるフリースタイルの子守唄は、何処にも、何処の誰によっても、回収/回帰されることのない子守唄なのだ。痛快。お見事!


追記*ハーモニー・コリン×AKB48も見たい。放送コード引っかかりまくりだけど。あと「銃」の扱いがいろいろと面白い。一方向に「行け」という命令のみならず、「男性器」が反転することで『デス・プルーフ』にもなるわけで。


追記2*『トラッシュ・ハンパーズ』への拙文。
http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20100429