『ムーンライズ・キングダム』(ウェス・アンダーソン/2012)


ウェス・アンダーソンの新作。楽しみにしてる方が多いと思うので、分析的なことは書かず、内容にも踏み込まずに書こうと思う。ポータブル・レコードプレイヤーと双眼鏡(&猫)を片手に少年と少女は旅に出る。ぼくらが旅に出る理由。この世界から逃れるために?そうではない。ウェス・アンダーソンは、それでもこの世界はこんなに笑えて、こんなに残酷で、こんなに美しいのだと、断固として主張する。『ダージリン急行』のラストショットが、終わらないカーテンコールのように、何度も「さよなら」と手を振ることで、この旅に続きがあったように。動き続けることで出会いが生まれるんだと、ジャック・リヴェットの『小さな山のまわりで』の登場人物は言っていたが、『ムーンライズ・キングダム』は、まさに旅をすることをやめてはならない、ということを感動的なまでの方法で描いている。旅の終わりは旅のはじまり。だからこの文章のタイトルを考えるとしたらこうなる。『ムーンライズ・キングダム』、旅を終わらせないために。カチカチとリズムを刻むメトロノームに導かれる、フルート!ピッコロ!チェロ!トランペット!16小節の旅の終わりとは、再び動き続けること、踊り続けること、演奏すること、そのすべての喜びのはじまり、新たな旅のファンファーレのことだ。ここには、きっとまた会える、という約束だけが、初恋の約束のように煌いている。ウェス・アンダーソンのどの作品よりも力強く!この作品が生み出されたことを幸せに思う。サンキュー、ウェス。最高の作品だよ!

追記*日本公開は来年の2月8日!以下、日本語字幕付き予告編。