2011年ベストシネマ


新年明けましてオメデトウゴザイマス。さて恒例の年間ベスト。今年はいろんな個人的な事情から例年より映画館と離れざるを得なかった年だった。ただ同時にこれまで以上に一本一本の作品の熱量と腰を据えて相対できた年でもあった。映画に関して、というより生活全般に関して、今年もっとも考えていたことの一つは、「動機」のことだった。『メカス=ゲリン 往復書簡』の中での印象的な言葉、「彼女の視線。この視線こそ我々が映画をつくる動機だ」(ホセ・ルイス・ゲリン)。『人生はビギナーズ』は思わずフライングで入れてしまったが、2011年のトップ5リストの内4作品には、あるショットに共通点がある。このショットが作品のつくられた「動機」と親密に結びついていることが、激しく胸を突いたのだ。『ラブ・アゲイン』に倣って言うならば、ソウルメイト・シネマたち。


1.『ソーシャル・ネットワーク』(デヴィッド・フィンチャー
2.『トスカーナの贋作』(アッバス・キアロスタミ
3.『永遠の僕たち』(ガス・ヴァン・サント
4.『5 windows』(瀬田なつき
5.『人生はビギナーズ』(マイク・ミルズ
6.『フィフィ・マルタンガル』(ジャック・ロジエ
7.『ファンタスティック Mr.FOX』(ウェス・アンダーソン
8.『汽車はふたたび故郷へ』(オタール・イオセリアーニ
9.『比較』(ハルーン・ファロッキ
10.『アンストッパブル』(トニー・スコット
11.『猿の惑星:創世記ジェネシス)』(ルパート・ワイアット
12.『惑星のかけら』(吉田良子)


去年のベストはこちら。
http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20110101


惜しくもリストから漏れた作品としては、『ザ・ウォード/監禁病棟』(ジョン・カーペンター)、『ボクシング・ジム』(フレデリック・ワイズマン)、『アナザー・ハッピーデイ』(サム・レヴィンソン)、『ピラニア3D』(アレクサンドル・アジャ)、『ラブ・アゲイン』(グレン・フィカーラジョン・レクア)。特に『ザ・ウォード』の画面連鎖・設計には目が喜びっ放しだった。ベストアクトは『トスカーナの贋作』のジュリエット・ビノシュ、と言いたいところだが、『永遠の僕たち』の若い2人を挙げる。ミア・ワシコウスカとヘンリー・ホッパー。きっとこの二人の若者がこれからのアメリカ映画を引っ張っていく。ミアもヘンリーもいずれ間違いなく監督作品を撮るはず。もう一人。『スーパー!』のエレン・ペイジも最高にクールだったね。公開作品では『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』にまだ行けてないのが悔やまれる(と書いたら妹が絶賛してて嫉妬した。レア・セイドゥがかわいかったって言ってた)。映画祭で上映された『クレイジー・ホース』(ワイズマン)、『Pina/踊り続けるいのち』(ヴィム・ヴェンダース)は来年の楽しみにとっておく。


リストに入っていない作品についても少しだけ。『サウダーヂ』(富田克也)に関しては、この映画を勝たせたい人の気持ちは痛いほど分かる。『サウダーヂ』という作品は、何より「動機」に満ちている。この作品は断じて過去の映画の喜びをトレースする映画ではない。『サウダーヂ』という作品を体験することは、トレースされた感情に喜ぶのとは一線を画している。映画の画面にならない画面など世の中にはないんだ、とばかりに画面を紡ぐ姿勢に共感はする。『東京公園』(青山真治)に関しては、残念だけど「非散歩映画」にしか思えなかった。



旧作に関しては全く行けてないので、この一本だけはどうしても、という作品を。なにより今年は念願のクロード・シャブロル特集がユーロスペース日仏学院で行われた。『ヴィオレット・ノジエール』に向かってる最中、立ち見も売り切れ、という劇場のフィーヴァーぶりを聴いて、この映画を見れないことの悔しさより嬉しさの方が遥かに勝ったことも記憶に残っている。本当に嬉しかったんだよ。日仏学院で初めてスクリーンで体験した『オフェリア』は決定的だった。クロード・シャブロルのいくつかに映画に出てくる戦慄のアイディア=死体が上にある、を『オフェリア』は知的な視線の伏線的倒錯によって描いた大傑作だった。そしてフィルメックスでの『ウィ・キャント・ゴー・ホーム・アゲイン』(ニコラス・レイ)の上映は本当に「体験」、そのものだったね。


旧作ベスト:『オフェリア』(クロード・シャブロル
http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20110715



DVDに関してはジュリエット・ベルトに尽きる。ジュリエット・ベルトが正しくジャック・リヴェットの後継者だったことが、こんなにも鮮烈な形として作品として残されたことに本当に衝撃を受けた。また個人的にはジュリエット・ベルトのキャリアをめぐる様々な人脈(ヨリス・イヴェンス!)が、レオス・カラックスにまで繋がっていることに縁を感じたね。やっぱり好きなものは繋がっていくものだね〜。『Havre』はオールタイムベストに入るよ。ここで改めて彼女のすべてのキャリアに敬意を表したいと思う。ありがとう、ジュリエット。


ジュリエット・ベルト『Havre』。
http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20110208


さて、2012年はすごい年になると思います。デヴィッド・フィンチャードラゴン・タトゥーの女』(予告編を映画館で見るたび動悸が抑えられないんだよ!)、イーストウッド『J・エドガー』に始まって、去年のカンヌ組も続々と公開を控えている。ジム・ジャームッシュ×ミア・ワシコウスカの新作も楽しみだ。何よりレオス・カラックスの新作『Holly Motors』のフランス公開日が決定した(8月15日)。日本にも年内に入ってくることを熱望する。ウェス・アンダーソンの新作も楽しみだ。個人的には新年早々1月中には、横浜を離れ新たな環境になるので、正直経済的には苦しくなるのかもしれないけど、こればかりは実際に生活してみなきゃ分からない。でも、いろいろあって確信したことがあります。仮に一年に一本しか映画を見れなくても、自分と映画との関係が切れるわけではないと。「引退」とかあり得ない。それに関しては今年、グルジアで開かれたトビリシ映画祭でカラックスが映画監督志望の若者たちに向けて語ったこの言葉がすべてを表している。


「ただ一つ必要なことは 、あなたがシネマトグラフィーの世界に属していると感じられるかどうかだ」(レオス・カラックス


では、みなさま、よいお年を!


追記*ベストリストをつくるとき便利なので、やっぱ短くてもマメにブログを更新してかなきゃなあ、と思いました。とりあえず『永遠の僕たち』については何か書きたいね!


追記2*ああ、なんてことだ。これを書き忘れていた。篠田麻里子さんと数秒間のお話ができたこと!2011年のハイライトでした。このブログを篠田麻里子応援ブログにしようか、と本気で考えたくらい(ウソです)。