『シルビアのいる街で』(ホセ・ルイス・ゲリン/2007)


日仏学院先行上映にてホセ・ルイス・ゲリンシルビアのいる街で』。祝☆公開決定記念ということで、この傑作を当ブログで扱うのは3度目だけど、かまわず書いておく。ペドロ・コスタ『何も変えてはならない』と共に全面的にプッシュしたい。さて、本日は上映後にゲリン監督のティーチイン付き。ということで客席からの質問がかなり盛り上がっていた。TIFF2008上映時の反響の大きさは想像以上だったということ。中には個人輸入したスペイン盤DVD(私の持ってるのと同じでした)を持参してきた方もいたくらい。この熱心さにゲリンも大いに感銘を受けていた模様。いい感じですね。


さて、劇場で体験するのはこれで2度目の『シルビアのいる街で』。今回気になったのは「音の消え入り方」だった。青年と女性がついに路面電車に乗ってはスクリーンプロセスのように画面が展開する刺激的なシーン。自己嫌悪に陥った青年の独り言を遮るように幻の女性「シルビア」が指を口元に当ててシィーーのポーズをするところ。ここで一気にすべての音が消えていく。この「シルビア」のシィーーのポーズは青年のクロッキー帳に描かれている。風でパラパラと捲られるクロッキー帳には過去と未来の女性の肖像(「肖像X(Xは常に女性)」はゲリンの一貫したテーマだ)が既に描かれている。女性の肖像が立ち現れてはすぐ消えたりのなかで音の輪郭にも演出がある。ということは現実に出会った「シルビア」のシィーーのポーズすらも肖像になってしまうのだろうか。ティーチインでのゲリンの言葉がとても美しい。曰く、「シルビアは”音”なんだ」。つまり「シルビア」は空気の振動=音の響きの中にしか存在しない。


ティーチイン開始当初、自作について語ることを好まないゲリンは佐向監督の質問内容を微妙にはぐらかしていた。輸入DVDを持参した方の質問を経て日仏学院の生徒さんと思わしき方がフランス語で質問された。それはゲリン監督にとっての「美しさ」について、という抽象的な質問だったのだけど、この質問が意外にも内容に踏み込んだ具体的な質問以上にゲリンの秘密を暴いていたように思う。逆にこういった方法で質問した方が、ゲリンはより創作の秘密を語ってくれるのかもしれない。「コントロールできるものとコントロールできないものの間に生まれる偶然の弁証法」。とはゲリンの言葉。「まず”取り除く”ことから(創作を)始める」というゲリンは舞台となったストラスブールを象徴する建物は一切撮らなかったそうだ。青年や女性からも名前や職業を”取り除く”。ほか、「路面電車は撮影用に動かしてはいない」。「ハトと(演出の)協定を結ぶことは可能だ」。「可能性=肖像」の話。あとの言葉はストラスブールのロケーションの話や、オヅ、ムルナウ、とTIFFのときと被ってるものが多かったかな。


ホセ・ルイス・ゲリンというまったく新しい才能がついに日本で多くの人の目に紹介される。来たるべき全作上映のためにも全面的に今回の上映を応援していきたい。


以下、『シルビアのいる街で』公式サイト。
http://www.eiganokuni.com/sylvia/


以下、当ブログ過去記事。
シルビアのいる街で』@TIFF2008
http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20081020
シルビアのいる街で』@英盤DVD
http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20091030
シルビアのいる街での写真』@スペイン盤DVD
http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20090304
(ゲリン全作公開を渇望する反響をいただいたので過去記事追加しておきます)
『影の列車』@スペイン盤DVD
http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20090305
『工事中』@スペイン盤DVD
http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20090308
イニスフリー』@スペイン盤DVD
http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20090310
ホセ・ルイス・ゲリンの短編」@スペイン盤DVD
http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20090312


追記*あとこれは余談だけど今日整理券並んでる最中、(シルビア)のようなロングの髪のエレガントな女の子が近くにいてドギリとした。