『ヴァンサンは牧場にロバを入れる』(ピエール・ズッカ/1976)


日仏学院にて『ロベルトは今夜』(1977)のピエール・ズッカ監督作品、日本語同時通訳付。本日は「エリック・ロメール、あるいはシナリオの問題」最終日。上映前に次回特集「ジュリエット・ビノシュ・レトロスペクティブ」(ユーロスペースと共催)に次いで「カンヌ国際映画祭監督週間特集」(!)、そして『夏時間の庭』『NOISE』の公開が決まった「オリヴィエ・アサイヤス特集」を予定しているとのアナウンス。いやいや素晴らしいですね、日仏学院。ビノシュが団長を務めるフランス映画祭2009ではパスカル・ボニゼール監督作品が上映されるらしい。これは楽しみ。日程が出ていないのが苦しいとこですが、、。http://www.unifrance.jp/festival/


で、『ヴァンサンは牧場にロバを入れる』。これは恐るべき作品だった。やたら大声で快活に動き回る主人公ファブリス・ルキーニの演技は、ヌーベルヴァーグを正しく継承しているというか、思考以前にアクションが発生する、まさしくジャン=ピエール・レオ直系の演技。ゴージャスな衣装に包まれ、ただならぬ雰囲気で登場するベルナデット・ラフォンには『ロベルトは今夜』のクロソウスキー夫人のようにいかにも欧州的に倒錯したエロスを感じワクワクする。


夜、館の前に置かれた石像が次々とライトアップされていく冒頭のツカミがまず素晴らしい。それとなく美術が凝っていて、アトリエや屋敷も素晴らしいのだけど、恋人同士が裸で横たわるベッドの向こう側の窓から覗く景色が作り物の星と三日月でできていたり、ショッピングウィンドウ越しにマネキンが無数に並べられていたり、箪笥の内扉に付いている鏡をズラして恋人を映したり、そういった小道具の細かい気配りの一つ一つとその遊戯が、イチイチこちらのツボをついてくれる。


主人公の父親は盲目の彫刻アーティスト、石像を売っていて、息子に面倒をみてもらっている。しかし息子は「本当に目が見えないのか、それとも僕を騙しているのか」と父を疑っている。ここで息子が父親に目薬を差す場面に強烈なサスペンスが生まれる。「目」というのがやはり恐怖を煽るのです。一枚の壁や扉を挿んで主人公が聴いてしまう声も面白い。父親と愛人が話す会話、隣人の喧嘩(「この、あばずれ女め!」などの罵倒が一変して軽やかな鼻歌に変わる!)。主人公はロバの被り物を隔てた誰かに真実を読み取ってしまう。終盤、愛人の屋敷に不法侵入した主人公は「あなたと寝たい」と告白する。「僕と寝るのが正常である証だ」とさえ言う。まるで言うことを聞かない「子供」に向け貴婦人は銃を放つ。大笑いする貴婦人、逃げまわる主人公、、、素晴らしい!


覗きが趣味の隣人の前で主人公の恋人が敢えて脱ぎ始めるシーンが好きですね。主人公との揉みくちゃな喧嘩の直後「もうウンザリよ!」と突然泣きはじめる。嫉妬深く、無闇に反抗的な態度をとってしまう彼のことを馬鹿だと思いつつ愛している彼女。この恋人たちの距離感に移入してしまいました。


「私は、ピエール・ズッカが、ジャン・ユスターシュと並んで、ヌーヴェルヴァーグ以後の最も重要な映画作家の一人だと信じている。」(エリック・ロメール


ピエール・ズッカはDVD−BOXがフランスで出ています。