『JLG/自画像』(ジャン=リュック・ゴダール/1995)

JLG / 自画像 [DVD]

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『JLG/自画像』はとても美しい映画でありながら「こ、このオッサン」と思わずにはいられない可笑しさに溢れている。ゴダール人間宣言をした果てに許しを請うて愛まで語りだすような冗談のような内容もさることながら、この作品は元々「現代の映画作家シリーズ」としてストローブ=ユイレに関するドキュメンタリーを頼まれて得た資金を、無断で使った挙句自分を撮ってしまったという、ゴダールらしいというか、常人には出来ないような経緯もあるらしい(それって普通に詐欺ぢゃんか!?)。


とはいえ作品には、これこそ、これだけのもので映画が成立するのか!?と驚くばかり。湖畔を歩くゴダールとノートに書かれたニコラス・レイの項(他ジャック・ロジェボリス・バルネットなど)がカットバックされるシーンでは、「嘘をついてくれないか?私をずっと待っていたと」という音声の引用、それがちょっと泣ける。映画庁の査察を受けるシーン。ゴダールの家のお手伝いさんがハタキでセカセカと掃除しながら「『ゲームの規則』は『大いなる幻影』とチャップリンの『独裁者』と並び、第2次世界大戦を予言した」とか言うシーンも実に素晴らしい。ゴダールがテニスに興じてボールに届かず「過去に追い抜かれることもある」とカメラに向かって語りかける場面(まるでウディ・アレンみたいに)もドキドキしますね。


ところでゴダールの実現しなかった映画といえば、ジーン・セバーグと三度組んで『悲しみよこんにちは』(プレミンジャー)の後日譚をニューヨークを舞台に撮るという話があったそうですね。撮られなかった映画、又は今は見ることができなくなってしまった映画を想像するのはとても甘美で豊かなことだと思います。