『ポーラX』(レオス・カラックス/1999)

第3回爆音映画祭にて『ポーラX』、『ジャン・ブリカールの道程』、『JLG/自画像』『Anchorage投錨地』の4本立て。すべて再見。ゴダールストローブ=ユイレを差し置いてカラックスの爆音体験に胸が躍っていた。カラックスの映画を箱で体験するということ自体が、自分にとっては特別すぎることなのだ(そんな私の卒論はもちろん「レオス・カラックス論」です!)。先日ムービープラスで放映されていた『メルド』を再見しながら「とはいえカラックスってこんなもんじゃないよね」という気持ちが高まっていたことも大きい。あの文字通り”タガの外れた”『ポーラX』が爆音調整でどう変化するのか。シャルナス・バルタスが指揮を執るインダストリアル・ノイズ・オーケストラに椅子は震え、船上シーンにおける決定的な心身の震えがダイレクトに体を貫き、「城」の静かな生活はより不穏に、静と動、すべての過剰さが映画と破壊的なまでに調和していた。


なにより船上シーンの調整が見事だった。カテリーナ・ゴルベワ(しかし『ポーラX』のゴルベワは本当に凄い顔をしている!特に沈黙しているときが怖い。スバラシイ)がギョーム・ドパルデューとデルフィーヌ・シュイヨーに問う心の底から(「友達はみな海の底にいる」)の問い=ゆらぎと船上の振動による相乗効果の演出がダイレクトに伝わってくる。またパーティーシーンの音編集が『ポンヌフの恋人』のダンスシーンを引き継いでいることがよりクッキリする。HIPHOPを基調にいろんな現実音をミックスさせたり切断をしていたり。『ポーラX』はブロンド(ギョーム、デルフィーヌ、ドヌーブ)と黒髪(ゴルベワ、ローラン=ティボー)で対称的に分けられた話でもあるわけだけど(だからギョームとローランの最初のハグ=髪色の強調にドキリとするわけです)、ゴルベワが登場するカフェのシーンで黒髪のティボーが席を立ったそのときに、聞いたことのない念仏のような呪文のような不吉な音が今回耳に入ってきた。やがてそれが黒髪の女イザベル=ゴルベワが鏡の前で唄う声に似ていることに気づいたとき、怖くなって震え上がってしまった。これは家に帰ってDVDで確認してみたところ、たしかに奇妙な音を確認できたのだけど、それがゴルベワの歌声とはハッキリ判別できない。幻聴というより、爆音マジック。いずれにせよ情と情のぶつかり合いと音と音のぶつかり合いが爆音によって猛威を奮う。魂の大きな塊=”無謀な狂気”!で体を貫かれるような体験なのだ。


リトアニアのカリスマ的映画作家シャルナス・バルタスのいくつかの作品を通過した目で『ポーラX』を再検証するという手も面白い。ゴルベワの顔を覆う乱れた黒髪にバルタス映画からの影響を発見できる。そもそも16ミリで撮られた街や工場の錆び付いた風景がバルタス的だと言えなくもない。だからこそカラックスは主人公の霊感としての役柄をバルタスに与えたのだと思う。


最後に。ギョーム・ドパルデューの持つ反抗期の少年のような美しさとやさしさに胸が張り裂けそうになった。子供(女の子)と仲睦まじく顔を摺り寄せ合う動物園のシーンの笑顔を一生忘れないだろう。私たちは本当に惜しい俳優を失ってしまったんだね。


爆音『ポーラX』は9日にレイト上映があります。是非この特権的な体験を。そしてレオス、君の長編を本当に心から楽しみにしている。こんなの見ちゃったら待ちきれないじゃないか。爆音『ポンヌフの恋人』、爆音『汚れた血』、爆音『ボーイ・ミーツ・ガール』も是非実現してほしい。
http://www.bakuon-bb.net/2010/timeschedule.php

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