『PASSION』(濱口竜介/2008)


東京藝術大学大学院修了作品。上映前に黒沢清濱口竜介の対談を聴く(無料)。なんでも黒沢監督は『PASSION』に影響を受けて『トウキョウソナタ』の編集を変えたのだとか(しかし本当かどうかは不明)。この歳で映像か脚本、どちらかに偏らない、両方大事にできてる濱口監督を褒めていました。「僕なんか脚本もちゃんと書かなきゃと思ったの40過ぎてからですよー」と笑いながら仰っていました。期待が高まる。


で、早速結論から言ってしまうと大変に素晴らしい作品でした。少なくとも完成度という点でここまで秀でていると感じる作品は学生映画云々関係なく滅多に体験できないレベルにある。緻密に練りこまれた会話と伏線の積み重ね、同じく緊密な関係を築き続ける短いショットと長いショットの絶妙な組み合わせ。タイトルバックが出てくるタイミングの妙からして既に引き込まれてしまった(エンドクレジットの出るタイミングも絶妙なこと極まりなし)。


中学教師役の河井青葉が「暴力」について生徒とディスカッションを重ねる場面や、30歳手前の男女が「本音ゲーム」を繰り広げる場面などは個人的にはちょっと苦しくもあるのだけど、それを喜劇に転じさせる(実際会場では笑いが起きていた)要素も備えているところが実に周到というか素晴らしいね。特に男から女への激情に任せた暴力が急激に愛に変わってしまう(彼らはキスをはじめる!)バスルームのシーンが素晴らしい。というか共感という次元でも非常に感心させられてしまいました。


上映後のQ&Aでは後半のいつ果てるでもない長〜いロングショットで、男女の後ろを絶妙なタイミングで通り過ぎていくトラックについて「偶然の事故」との話が。そういうの呼んじゃうんですね。あれホントいいですよ。


この作品に素晴らしい!傑作!と感銘を受けつつ、且つそんなのは「ないものねだり」に過ぎないと分かりつつ、ひとつだけ物足りなさを感じてしまうのは、やはりこの作品の異常なくらい完成度が高いところでしょうか。あまりにも成熟し過ぎているというか。たとえば同じ藝大2期生の瀬田なつき監督による『彼方からの手紙』では、見たこともないような雪が降った。あの雪の降り方は決定的に新しい。もちろん『PASSION』という作品が「映画」の焼き直しという低いレベルにはないことも確かなのだけど。ここまで充実した作品は必ずや劇場公開されるはずなので、未見の方は見逃し厳禁で。


しかししかし藝大2期生の作品、めちゃくちゃレベル高いね!


追記*Q&Aではジョン・カサヴェテスの『フェイシズ』という名前も。なるほど誕生日ケーキ。あと舞台挨拶のときは全然感じなかったのだけど劇中の占部房子さんは『汚れた血』の頃のジュリエット・ビノシュみたいな髪型でとてもよい。役者さんを見る映画なのですが、特に女優陣、みな素晴らしい。


追記2*「本音ゲーム」での男性の視線を右目左目の動きだけで左右対称の軸にしたトライアングルな3人の位置関係、その絶妙なるカット割りにも大いに唸らされた。