2008年ベストシネマ


新年明けましてオメデトウゴザイマス。さてさて、2008年度ベストシネマ。状況に対する批評のために敢えて、という選び方はせず、「これからもよろしくッ!」とこちらから挨拶したくなるような、つまり一生付き合っていきたいと思える作品を選んでみました。本当に今年は傑作ぞろいだった。8の付く年=次のディケードへの準備=新たな夜明け=2010年代の始まり、と云うことなのでしょう。そして世の中がキツクなればなるほど優れたものが生まれるというのは芸術の抱える宿命なのでしょう。劇場で見た映画のみを選出。といいたいところだけどフランスの映画女優が撮った1本だけを例外とさせていただきます。


1. 『トウキョウソナタ』(黒沢清
2. 『シルビアのいる街で』(ホセ・ルイス・ゲリン
3. 『アンナと過ごした4日間』(イエジー・スコリモフスキー
4. 『胡蝶の夢』(フランシス・フォード・コッポラ
5. 『アルテミスの膝』(ジャン=マリー・ストローブ
6. 『レッド・バルーン』(ホウ・シャオシェン
7. 『イースタン・プロミス』(デヴィッド・クローネンバーグ
8. 『アンダーカヴァー』(ジェームズ・グレイ
9. 『彼方からの手紙』(瀬田なつき
10.『コロッサル・ユース』(ペドロ・コスタ
11.『スウィニー・トッド』(ティム・バートン
12.『女優』(ヴァレリア・ブルーニ=テデスキ


どうしても10本に選びきれず12本。それでも『ジャン・ブリカールの道程』(ストローブ=ユイレ)『接吻』(万田邦敏)『憐 Ren』(堀禎一)『ランジェ公爵夫人』(ジャック・リヴェット)『ダージリン急行』(ウェス・アンダーソン)『エグザイル/絆』(ジョニー・トー)『メルド』(レオス・カラックス)『みかこのブルース』(青山あゆみ)といった素晴らしい作品たちが洩れている。


さらに『誰でもかまわない』(ジャック・ドワイヨン)『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(ポール・トーマス・アンダーソン)『人のセックスを笑うな』(井口奈己)『PASSION』(濱口竜介)『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』(ジョージ・A・ロメロ))『功夫哀歌/カンフーエレジー』(吉田良子)『動物、動物たち』(ニコラ・フィリベール)といった力作たち。ここまでが候補に入っていました。


『ハプニング』(M・ナイト・シャマラン)と『ミスト』(フランク・ダラボン)は見逃したけどあまり後悔していない。本当に後悔させられるのは『州議会』(フレデリック・ワイズマン)と『したがるかあさん 若い肌の火照り』(堀禎一)を見逃したことである。



次に同じことを旧作で。リヴェットとドワイヨン以外そんな熱心に通ったとは言えないけど同じく12本。ちなみに昨年の旧作ベストは『暗黒街の女』(ニコラス・レイ)。『アウトワン』を見たことは生涯の財産。12時間40分にも及ぶリヴェットの宇宙は、油断すると固まってしまいがちな映画に対する「イメージ」を悉く粉砕してくれるものだった。映画はこんなに自由でも一向に構わないんだよ、と。同じことはドワイヨンの作品群にも云える。この両者の作品群は今でも目に焼きついて離れない。日仏学院様様ですね。本当に感謝しています。PFFダグラス・サーク特集も大盛況だったね。


1. 『アウトワン』(ジャック・リヴェット
2. 『ウィークエンド』(ジャン=リュック・ゴダール
3. 『思ひ出の曲』(デトレフ・ジールク)
4. 『あばずれ女』(ジャック・ドワイヨン
5. 『三重スパイ』(エリック・ロメール
6. 『チチカット・フォーリーズ』(フレデリック・ワイズマン
7. 『unloved』(万田邦敏
8. 『道中の点検』(アレクセイ・ゲルマン
9. 『キュスターヌ小母さんの昇天』(ライナー・W・ファスビンダー
10.『阿波の踊子』(マキノ正博
11.『妥協せざる人々』(ストローブ=ユイレ
12.『最後の切り札』(ジャック・ベッケル


2009年は2月公開作にイーストウッドとかロメールとかフィンチャーとか凄そうなのがたくさんありますね。09年は個人的にもいろいろと環境を変えなくてはならない(半ば強制的にですが)年になりそうな気配なので、さてどうなりますか。最後に世の中がキツキツの御時世、ヒドク感銘を受けた言葉を以下に引用します。『トウキョウソナタ』に救われるのはそれはそれで一向に構わないのだけど、今、本当に必要なのは『トウキョウソナタ』を見て自らを生活の新たな創造の方向へと奮い立たせることだと思っている。黒沢さんだって「一緒に未来を作り直そう」と呼びかけていたじゃないか。救済ではなく、共に考え闘うことです。


ワタシは、音楽(や、映画も)が宗教効果を不可避的に持ってしまう事すら、20世紀までの営為として、超えたいと思っています。(中略)世の中が厳しく成ると、一直線に救いを求める人が多く成り、宗教効果が生じやすい。ワタシが共闘や現実に立ち向かう事を強調するのはそういう事です。菊地成孔