『囚われの女』(シャンタル・アッケルマン/2000)


「季刊 真夜中 No.5」での蓮實・黒沢・青山の3氏鼎談では『チェンジリング』における公聴会と裁判所の「シーンバックではなくカットバック」(青山監督)が面白かったです。たしかにあの強引な繋ぎを成立させてしまうイーストウッドは狂人だ。又、『アストレとセラドン』の話ではピエール・ズッカの『ヴァンサンは牧場にロバを入れる』が傑作だという蓮實先生の発言も。なんでもズッカにはクロード・シャブロル主演(!)の作品があるらしい。なるほど、盲目の老人、ブルジョワ女、怪しい館、と『ヴァンサン〜』は如何にもシャブロル的キーワードに溢れた世界ですもんね。ズッカの場合シャブロルより胡散臭いというか馬鹿馬鹿しい倒錯の末に全てをアッケラカンと笑い飛ばしてしまう跳躍力が素晴らしい。私の拙文はこちら。
http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20090208
さて、本日は日仏学院シャンタル・アッケルマンの『囚われの女』。英語字幕付き。素晴らしかった。初めてこのスチールを見たときから、このガラス越しに殺人が起こるのか?とか、このガラス越しに恋人たちがキスを交わすんだろか?とか、ひとり想像を膨らませていた。冒頭、夜の波と、スクリーンに投射された女、女、女たちの8mm映像の前で佇む男性の後頭部、次いで、男性が車で女性を追いかける一連のショットと繋ぎがまず素晴らしい。『ジャンヌ・ディールマン』における照明を消しては各部屋を渡り歩くデルフィーヌ・セイリグのアクションが、そのまま活かされているかの如く、滑らか、簡素にして、刺激的な運動が終始繰り返される。ほとんど少ないパターンのショットで構成されたミニマルな作品ともいえる。夜の森で通り過ぎる女、女、女、ドラッグクイーン。そして夜の海に勢いよく飛び込む男女。ビショ濡れのまま船で凍える主人公を捉えたラストの美しい長回しに、『処女の寝台』(フィリップ・ガレル)における堕天使=キリストを見る思いがした。彼の物語もまたここから始まるのだろうか?