『ファンタスティックMr.FOX』(ウェス・アンダーソン/2009)


やっと公開されたウェス・アンダーソン最新作は「10年がかりの構想によるストップモーション・アニメーション」と謳われる「マスタープラン」(劇中に何度も出てくる言葉)という言葉が想起させる”ガチガチ”ぶりを思いっきり遠くへ投げやってしまう。盗みを働くため疾走する2匹(2人)を横移動で並走する例のウェス・アンダーソン印のショットとポップ・ミュージックが炸裂すれば、『ダージリン急行』のあの3人組を思い出し、あとは身の任せるまま画面の動きに乗り込んでしまえばいい。嗚呼、ウェス・アンダーソンは本当にアクションの作家なのだな、と改めて思ったのは、こちらが見たいところを変な省略によって誤魔化すことなく、とても魅力的に撮っているところだった。ウェス・アンダーソンならこれをこのまま実写でもいけちゃうんじゃないの?というのはウソ(ムリ)なのだけど、縦横に駆け抜けるあの『ダージリン急行』のカメラを体験した身としては、そんなことも想像してみたくなるほど、本作はアナログなアクションの連続に貫かれていた。アクションが綿密な「マスタープラン」を凌駕している。



「マスタープラン」と釘打たれてはいるものの、相変わらずウェス・アンダーソン村の住人はほとんど行き当たりばったりな行動の連続にしか見えない。地下へ地下へとひたすら穴を掘ることで人間の魔の手から逃れたミスター・フォックスが指パッチンのように「閃く」アイディアは、結局のところボソボソ声で何を言ってるのか分からないばかりか、むしろ自己完結しているように思える。よく考えるとかなり迷惑なヤツなのだけど、いつの間にか皆の信頼というより結束を導いてしまうミスター・フォックス氏。綿密なんだかテキトーなんだか分からない計画はまさに『ダージリン急行』の3人組のように行き当たりばったりなアクションに展開される。コマ撮りならでは動き。真正面に並んだ3人がグイッと一歩動いては対面する相手にカットが変わり、再び同じアクションを繰り返す「だるまさんが転んだ」のような動きのスリル。横並びに置かれた防犯カメラにフォックスたちの犯行のアクションが次々と羅列されるユーモア。そしてサイドカー付きバイクの疾走、脱臼したテロリズム!物語の流れと関係ないアイディア(瞑想とか)の連続と、やがてその無意味の結晶ともいえるバカバカしいほど強引で笑える狼との出会い(なぜか神秘的なところがステキだ)。ウェス・アンダーソンノア・バームバック(脚本。『イカとクジラ』の監督)による余白を満遍なく準備する脱臼したアクションの設計=マスタープランにしてやられた。強引の上に強引を重ねたラストは、音楽にのって(実際にリズムをとってる人もいた)一緒に踊りだしたくなってしまったよ。痛快。公開してくれてありがとう。


追記*暗い部屋に光るプラレールと夜の列車の横移動の繋ぎに泣けた。個人的にはやっぱ優秀じゃない息子アッシュが好きですね。「息子」というキーワードはウェス・アンダーソン作品を貫いている。括弧つきの(息子)というキーワードですね。


追記2*ノア・バームバックの『GREENBERG』は『マーゴット・ウェディング』と同じくDVDスルーになってしまうのだろーか?


追記3*書き忘れた。あの車庫は『ダージリン急行』の車庫だよね!