2015年ベストシネマ


新年あけましておめでとうございます。さて、毎年恒例年間ベストシネマ。2015年は個人的に素敵な出会いと悲しい別れのあった年でした。人生というものは良くも悪くもホントに上手く出来ているのだなあ、と身を持って感じた一年でした。女性ファッション誌の『Soup.』さんから原稿の依頼があったのは嬉しかったですね。というのも、個人的にはとても新鮮で、すごく勉強になったし、面白かったからです。自分が成長できる人に出会えたり、成長できる仕事に出会えたら、それは本当に幸せなことだ。


前置きが長くなりましたが、2015年はそれこそ出会いと別れの「さよならを身に纏う」素晴らしい作品の宝庫でした。中でもフランス映画の健闘が光ったね。ミア・ハンセン=ラブ、メラニー・ロランアルノー・デプレシャンの新作の女性たちは、とりわけ瞳に焼き付いている。以下、心の20本。


1.『EDEN エデン』(ミア・ハンセン=ラブ)
Eden/Mia Hansen-Love


2.『アラビアン・ナイト』(ミゲル・ゴメス)
Arabian Nights/Miguel Gomes


3.『呼吸 -友情と破壊』(メラニー・ロラン
Respire/Melanie Laurent


4.『あの頃エッフェル塔の下で』(アルノー・デプレシャン
Trois souvenirs de ma jeunesse/Arnaud Desplechin


5.『QUEEN OF EARTH』(アレックス・ロス・ペリー)
Queen of Earth/Alex Ross Perry


6.『ボーン・トゥ・ビー・ブルー』(ロバート・バッドロー)
Born to Be Blue/Robert Badreau


7.『サンローラン』(ベルトラン・ボネロ)
Saint Laurent/Bertrand Bonello


8.『イット・フォローズ』(デヴィッド・ロバート・ミッチェル
It Follows/David Robert Mitchell


9.『山河ノスタルジア』(ジャ・ジャンクー
Mountains My Depart/Jia Zhangke


10.『While We´re Young』(ノア・バームバック
While We´re Young/Noah Baumbach


11.『パゾリーニ』(アベルフェラーラ
Pasolini/Abel Ferrara


12.『フォーカス』(グレン・フィカーラジョン・レクア
FOCUS/Glenn Ficarra,John Requa


13.『ジャクソン・ハイツ』(フレデリック・ワイズマン
In Jackson Heights/Frederick Wiseman


14.『007 スペクター』(サム・メンデス
Spectre/Sam Mendes


15.『ミューズ・アカデミー』(ホセ・ルイス・ゲリン
La Academia de Musase/Jose Luis Guerin


16.『アクトレス』(オリヴィエ・アサイヤス
Clouds of Sils Maria/Olivier Assayas


17.『ローリング』(冨永昌敬
Rolling/Masataka Tominaga


18.『Me and Earl and The Dying Girl』(アルフォンソ・ゴメス=レホン)
Me and Earl and The Dying Girl/Alfonso Gomes-Rejon


19.『ババドック 暗闇の魔物』(ジェニファー・ケント)
The Babadook/Jennifer Kent


20.『子連れじゃダメかしら』(フランク・コラチ
Blended/Frank Coraci


『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』、『ラブバトル』は昨年のベストに入れたので対象外。どちらも待望の日本公開。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』の熱狂は感動的だったよ。また、『アンジェリカの微笑み』は一昨年のベストに入れたのでこちらも対象外。近年のオリヴェイラの作品で一番多くの人に見てもらいたかった作品でした。昨年のベストは以下に。


http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20150101




God Help The Girl


未公開作について簡単に。ミゲル・ゴメスの『アラビアン・ナイト』は劇場で体験したら間違いなく1位になった作品。ミゲル・ゴメスは本当にとんでもないところまで来てしまったな、と第1部を見ただけで思った。『QUEEN OF EARTH』は、フィリップ・ガレルが顔の作家を撤退しつつある今、アレックス・ロス・ペリーが顔の作家の最前線に踊り出たことを告げる大傑作。とにかく新しいんだよね。『イット・フォローズ』は強烈に面白い作品。プールのシーンは暴力的に脳裏に焼き付いてる。ノア・バームバックの新作は個人的には『ミストレス・アメリカ』より好きで、エヴァーグリーンなやさしさに溢れている。アダム・ドライバーがよいね!アベルフェラーラパゾリーニ』は本当に夜の映画。パゾリーニの愛した夜。ここには愛情しかないよ。傑作です。『Me and Earl and The Dying Girl』はウェス・アンダーソンの影響にありながら、初めて影響から逃れることに成功した作品。



Queen of Earth


既にどの作品のことも書きたくなってるのだけど、ジャ・ジャンクーの新作について少しだけ。フィルメックスのQ&Aのとき、中国人の女性のお客さんがジャ・ジャンクーに「(この映画撮ってくれて)ありがとう」と言いながら泣き崩れてしまったのだけど、その気持ちが痛いほど分かるから、本当にもらい泣きしそうになってしまった。『山河ノスタルジア』という映画に描かれた未来は決して未来への予言などではなく、ジャ・ジャンクーが言うように現在の「私たちの住んでいる世界」に他ならない。あれほど悲痛な世界が待っている(というか現実がそれを作りつつある)。それを肯定するでも否定するでもなく映画としてただ大きく描くことに成功したジャ・ジャンクーに惜しみない拍手を送りたい。



Mountains My Depart


主演女優賞は『はじまりのうた』のキーラ・ナイトレイに。主演男優賞は『ボーン・トゥ・ビー・ブルー』のイーサン・ホークに。最高にセクシーな映画賞&最高にクールなサントラ賞を『フォーカス』に。アップタウン・ファンク・エンパイアを使うなんて、一体全体どれだけハイセンスなんだ。こんな人どこにもいないぞ。全くもってクソ最高な映画。



Begin Again


他、『マイ・ファニー・レディ』(ピーター・ボグダノヴィッチ)、『愛の残像』(突き抜けて好きだ)以降の作品では一番好きだったフィリップ・ガレル『L'ombre des femmes』、『ハッピーエンドが書けるまで』(ジョシュ・ブーン)、どれもよかったね。



She´s Funny That Way



Eden

さて、2015年は本当に偉大な映画作家と偉大な女優がいなくなってしまった年でもあった。マノエル・ド・オリヴェイラ原節子。二人ともに、いつその報せが届いても不思議ではないはずなのに、いつまでも生き続けてくれるような気がしていた。突然の訃報に触れたときとはまた違う、私たちと映画・歴史を繋ぎとめていた大きなものを失った喪失感。ありがとう、オリヴェイラ。ありがとう、原節子さん。ありがとう、ありがとう。