2009年ベストシネマ


新年明けましてオメデトウゴザイマス。さてさて2009年ベストシネマ。2009年は傑作揃いだった2008年と比べてやや落ちるみたいなことは全然なく、こうしてリストを並べてみるとむしろ去年より凄かったんじゃないかと思える。やはりアメリカ映画の充実ぶりが光る、その底力に慄く一年だった。個人的な感覚ではゼロ年代は既に終わり、新たなディケードの幕開けを告げる年だったと認識している。『チェンジリング』のラストで何も解決されなかったアンジーが優しさと気高さを堪えて放つ「希望」という言葉。アンジーが「希望」と一言呟きフェイド・アウトしていく其のフレームが絵画のような画面=映画の中だったことを思えばこそ、「(映画の)終わりの始まり」に、震えるような共感を覚えた。かつて無数のガラクタの前で「私たちはここから始めなければならない」と呟いたのはジャン=リュック・ゴダールだったね。以下、すべて劇場で体験した作品。一作家につき一本という勝手な制約につき、『グラン・トリノ』は落とす。どう考えても『グラン・トリノ』じゃねーの!?信じられん!という声が何処からか聞こえてきそうだけど、『グラン・トリノ』よりも『チェンジリング』により強く激しく心を揺さぶられた私個人の体験の結果です。


1.『チェンジリング』(クリント・イーストウッド
2.『リミッツ・オブ・コントロール』(ジム・ジャームッシュ
3.『イングロリアス・バスターズ』(クエンティン・タランティーノ
4.『アンナと過ごした4日間』(イエジー・スコリモフスキ
5.『時の彼方へ』(エリア・スレイマン
6.『我が至上の愛 アストレとセラドン』(エリック・ロメール
7.『サブウェイ123 激突』(トニー・スコット
8.『スペル』(サム・ライミ
9.『パリ・オペラ座のすべて』(フレデリック・ワイズマン
10.『夏時間の庭』(オリヴィエ・アサイヤス
11.『赤頭巾』(青山真治
12.『THIS IS IT』(ケニー・オルテガ



去年に続き12本。第2群候補作として『レイチェルの結婚』(ジョナサン・デミ)、『シーリーン』(アッバス・キアロスタミ)、『TOCHKA』(松村浩行)、『3時10分、決断のとき』(ジェームズ・マンゴールド)、『ユキとニナ』(諏訪敦彦、イポリット・ジラルド)、『あとのまつり』(瀬田なつき)、『よく知りもしないくせに』(ホン・サンス)。第3群候補作として『パブリック・エネミーズ』(マイケル・マン)、『アバター』(ジェームズ・キャメロン)。ほか、『ウルトラミラクルラブストーリー』(横浜聡子)、『パンドラの匣』(富永昌敬)、『美しい人』(クリストフ・オノレ)といったフレッシュな作品までが候補に。


また見逃した新作で後悔してるのは『悲しみのミルク』(クラウディア・リョサ)、『英国王給仕人に乾杯!』(イジー・メンツェル)、『グッド・キャット』(イン・リャン)。次の機会を餓えて待つ!『カールじいさんの空飛ぶ家』(ピート・ドクター)は近々体験予定。



続いて旧作ベスト10。こちらも去年に引き続き選びきれず12本。昨年より残念ながら劇場へ向かう回数は減ってしまったのだけど、限られた機会の中でこれだけ強力・強烈な作品に出会えたことを嬉しく思う。『ひとりで生きる』は新作・旧作合わせ、正真正銘今年のベスト1。足がガクガクするような体験だった。『ぼくら20世紀の子供たち』と共に、この体験を生涯忘れないだろう。『こおろぎ』の大胆極まる振り切れ方にも心底震えた。西伊豆、夜の海、月に吠え「変身」する山崎努は今年最も仰天したショット。以下、同じくすべて劇場で体験したもの。ギィ・ドゥボール特集もありがたかった。


1.『ひとりで生きる』(ヴィターリー・カネフスキー
2.『ルート1』(ロバート・クレイマー
3.『こおろぎ』(青山真治
4.『証人者たち』(アンドレ・テシネ)
5.『感傷的な運命』(オリヴィエ・アサイヤス
6.『ヴァンサンは牧場にロバを入れる』(ピエール・ズッカ)
7.『無謀な瞬間』(マックス・オフュルス
8.『ワンダ』(バーバラ・ローデン
9.『ボリシェヴィキの国におけるウェスト氏の異常な冒険』(レフ・クレショフ)
10.『創造物』(アニエス・ヴァルダ
11.『調律師』(キラ・ムラートワ)
12.『血の婚礼』(クロード・シャブロル


ほか、『あなたの目になりたい』(サシャ・ギトリ)、『麻薬3号』(古川卓巳)、『玄界灘は知っている』(キム・ギヨン)、どれも問答無用の傑作である。短編だけど『ピロスマニのアラベスク』(セルゲイ・パラジャーノフ)は凄すぎた。



もう一本、輸入DVDで見て以来、記憶と視界の周縁を一年中グルグルと回り続けている作品がある。ホセ・ルイス・ゲリンの『影の列車』。未来への爆弾のようなこの作品の公開を心から望む。クレール・ドゥニの新作『35 RUMS』、旧作『侵入者』も素晴らしい作品だった。ほか、WEB限定配信で見たジャン=クロード・ルソー『セリ・ノワール』の大胆さも忘れがたい。ゲリン『影の列車』についての拙文は以下に。
http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20090305


あと手前味噌ですが2009年は自作の上映機会があったことがやはり感慨深いです。たまたま居合わせてお時間付き合ってくださったお客さんたち、どうもありがとう。手伝ってくれたみんな、本当に本当にありがとう。この場を借りて感謝の気持ちを。


さて、いよいよ2010年代。念願のジャック・ロジェ特集に始まり、早くも2月にイーストウッド新作の公開が決まっていたり早速興味深い作品が並んでいます。09年の海外各誌年間ベストを総ナメしたといえるキャサリン・ビグローの『ハート・ロッカー』は3月。ついに一般公開される『シルヴィアのいる街で』(ホセ・ルイス・ゲリン)も3月。黒眼鏡の奥で不気味な眼光を放つアラン・レネの新作(仏カイエ誌1位&フィルムコメント誌北米未公開作部門1位)。まだ公開は決まってないけど予告編だけで期待値MAXのコッポラ&ギャロ『テトロ』。オリヴェイラの『ある金髪娘の奇行』は今年中に公開されるだろうか?そして何よりジャン=リュック・ゴダールの新作が控えていることが2010年の最大のトピック、今後を占う道標(または墓標?)となるでしょう。


最後に。マイケル・ジャクソンアベフトシの思い出に。時さえ忘れて、あなたたちの奏でる音楽に夢中になったんだよ。