2010年ベストシネマ


新年明けましてオメデトウゴザイマス。さてさて2010年ベストシネマ。アメリカ映画で盛り上がった2009年に比べ、2010年は予想通りヨーロッパ映画(非アメリカ映画)の復調が目立った。毎年12本の作品を挙げていたのだけど、2010年は本当に一本一本に強い思い入れがあってリストから落とすことが心情的に不可能だった。よって20本のベストを挙げる。「ロックンロールは鳴り止まないっ」のテーゼに倣っていうならば、ここに挙げた作品たちは劇場を出ても次の日になってもなんだか全然鳴り止まねぇ!映画たちだったのだ。なかでも「演舞」ということが作品そのもののテーマとなっている『勝利を』をベスト1に選びたい。『勝利を』では「演じる」ということの緊張が2重にも3重にも織り重なっている。「わたしたちの愛は、どれほど誠実であろうと演技である」のテーゼに倣っていうならば、私たちの日常レベルにおいて「演じる」ということは知らず知らず切実な手段となっている。日常的な「演舞」の複雑さにおいて嘘は嘘でなく、仮面は仮面ではないのだろう。ならば「演舞」の構造を剥き出しにしてやろう、暴かれた世界の残酷さと共に。ムッソリーニの息子が父の演説をド迫力のテンションで物真似=パロディ化する。もはや誰の声も聞こえていない彼の孤立化された極度の虚しさで画面が緊張する、そのとき。同じようにヒロインがサイレント映画の女優のぼやけた、しかし決して消えない傷痕=記憶が頼りとばかりに繰り返し「演舞」する、そのとき。『勝利を』は私たちの「演舞」に限りなく肉薄する。あたかも劇場がグルングルンに揺れ動いるかのような、あの特別な体験を私は忘れない。以下、ベスト20。すべて劇場で体験したもの。


1.『勝利を』(マルコ・ベロッキオ
2.『ゴダール・ソシアリスム』(ジャン=リュック・ゴダール
3.『テトロ』(フランシス・フォード・コッポラ
4.『ホワイト・マテリアル』(クレール・ドゥニ
5.『ローラーガールズ・ダイアリー』(ドリュー・バリモア
6.『エッセンシャル・キリング』(イエジー・スコリモフスキ
7.『何も変えてはならない』(ペドロ・コスタ
8.『ゲスト』(ホセ・ルイス・ゲリン
9.『ハンズ・アップ!』(ロマン・グーピル)
10.『トイ・ストーリー3』(リー・アンクリッチ)
11.『世界の最後の日々』(アルノー&ジャン=マリー・ラリュー)
12.『コロンブス 永遠の海』(マノエル・ド・オリヴェイラ
13.『あの夏の子供たち』(ミア・ハンセン=ラブ)
14.『抱擁のかけら』(ペドロ・アルモドバル
15.『バッド・ルーテナント』(ヴェルナー・ヘルツォーク
16.『風にそよぐ草』(アラン・レネ
17.『アリス・イン・ワンダーランド』(ティム・バートン
18.『私たちの好きな八月』(ミゲル・ゴメス)
19.『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(瀬田なつき
20.『トラッシュ・ハンパーズ』(ハーモニー・コリン


惜しくもリストから漏れた作品としては、『ゾンビランド』(ルーベン・フライシャー)、『ウィンターズ・ボーン』(デブラ・グラニック)、『エクスペンダブルズ』(シルヴェスター・スタローン)、『アイアンマン2』(ジョン・ファブロー)、『アウトレイジ』(北野武)、『The Depth』(濱口竜介)、『Inland』(タリク・テギア)を挙げたい。いずれも大好きな作品であることに変わりはない。ここに入っていない作品で、おそらくどの選者のリストにも入る作品の筆頭は『ナイト&デイ』(ジェームズ・マンゴールド)だろう。この作品に関してはスクリューボーラーとしてクロノス時間を突き破るマンゴールドの志の高さに泣かされつつ、こんなこと言うのは好きじゃないんだけど、キャサリン・ヘップバーンの不在をギリギリの残酷さで感じさせるキャメロン・ディアスにいまひとつ乗れなかったのが理由。とはいえ主演男優賞を選ぶならトム・クルーズの圧勝。『ブロンド少女は過激に美しく』は『コロンブス』と個人的なダイレクトな感情の揺さぶりに関して天秤にかけた結果。両方とももちろん大好きな作品。『コロンブス』でオリヴェイラ夫婦は互いに向き合うのではなく、同じ空を見つめるんだ。泣かずにいられるだろうか。『クリスマス・ストーリー』については、個人的にアルノー・デプレシャンの最高傑作は『エスター・カーン』だという認識を改めて感じた。とはいえデプレシャンの映画を語るときの真摯な姿勢には激しく心を揺さぶられた。ユーロスペースでは、このまま一晩中でも語り続けるんじゃないか?というくらい会場に熱情がハネッ返っていた。あのトークを忘れない。


尚、映画祭で上映された『トスカーナの贋作』(アッバス・キアロスタミ)、『ブンミおじさんの森』(アピチャッポン・ウィーラセタクン)、『刑事ベラミー』(クロード・シャブロル)は見逃した。劇場公開を楽しみに待ちたい。タイミングが合わず見逃した作品として一番後悔しているのは『ぼくのエリ 200歳の少女』(トーマス・アルフレッドソン)、『冬の小鳥』(ウニー・ルコント)。話題の『キック・アス』(マシュー・ヴォーン)は年明けに体験予定。



続いて旧作のベスト。アラン・レネ特集を除いてまったく通えなかったというのが本当のところ。とはいえアラン・レネを再考する、というより、アラン・レネへの誤解を解く、日仏学院及び、フランス映画祭での特集上映は本当に実りある体験だった。リストには入ってないものの、アルノー・デプレシャンのフェイヴァリット『死に至る愛』や『スモーキング』のようなかわいらしい作品も忘れがたい。サビーヌ・アゼマは本当に面白い女優だ。『映画「ピクニック」の撮影から』に関してはジャン・ルノワールの撮影素材のみで構成したのが吉。ミア・ハンセン=ラブの美しい処女作はいますぐにでもフラッシュバックできる。なんといっても極めつけはジャック・ロジエの特集上映だった。ロジエのすべての作品が好きだ。オーーールゥエット!


1.『オルエットの方へ』(ジャック・ロジエ
2.『春の劇』(マノエル・ド・オリヴェイラ
3.『バリエラ』(イエジー・スコリモフスキ
4.『神の結婚』(ジョアン・セザール・モンテイロ
5.『すべてが許される』(ミア・ハンセン=ラブ)
6.『六つの心』(アラン・レネ
7.『ウィンブルドン・スタジアム』(マチュー・アマルリック
8.『ポケットの中の握り拳』(マルコ・ベロッキオ
9.『真昼の不思議な物体』(アピチャッポン・ウィーラセタクン
10.『映画「ピクニック」の撮影から』(アラン・フレシェール)



輸入DVDに関してはイチイチ挙げてたらキリがないのだけどジャック・ロジエの最も過激な傑作『トルチェ島に漂流した人たち』は是非とも公開されてほしい。当ブログ的にはマラン・カルミッツの監督作品を特集をしたのも忘れがたい。とりわけマルグリット・デュラス&モーリス・ガレル『Nuit noire Calcutta』とミシェル・モレッティが美しい『Sept jours ailleurs』は傑作だ。そして公開が待たれる作品といえば『Two Lovers』(ジェームズ・グレイ)。私的主演女優賞はこの作品と『アイアンマン2』でグウィネス・パルトロウに決定。とはいえ『ヴィオレット・ノジエール』(クロード・シャブロル)の記憶からいまだ解放されてないんだけどね。これはとても幸せなことだ。


さて来年はデヴィッド・フィンチャーソーシャル・ネットワーク』、イーストウッドヒアアフター』、トニー・スコットアンストッパブル』、オリヴェイラの大本命『アンジェリカの不思議な事件』、キアロスタミトスカーナの贋作』と楽しみは尽きない。海外各誌をフィンチャーと共に総ナメしたオリヴィエ・アサイヤス『カルロス』はなんと年明けにWOWOWで放映予定(DVD発売日に買ったのに!いまだ未開封)というオドロキ。青山真治『東京公園』も楽しみだ。



新作に盛り上がるのも楽しいのだけど、2010年にこの世を去った偉大な二人の映画作家クロード・シャブロルエリック・ロメールを果たして本当に発見したのか?という個人的な問答がある。それはこれからも自分の中で繰り返される問答なことに間違いないのだろうけど。彼らは真の意味で継承者であり開拓者だった。彼らの開拓したオリジンな地平について、これからも繰り返し語り継いでいく、その先に未来の継承と開拓はある。ロメールに関しては最高傑作『三重スパイ』の凄まじさを今一度考えたいところ。シャブロルに関しては何も公開されていないに等しい。来年の日仏学院での特集上映は本当にありがたいし期待しているのだけど、特殊上映でない形で上映できたらもっといいのにね。『ヴィオレット・ノジエール』や『破局』のような傑作が日本語字幕を付けて、より多くの人に届けば、それがクロード・シャブロルへの発見と議論のきっかけになる。とにもかくにも来年早々に公開の決まった『引き裂かれた女』に駆けつけたい。
http://www.eiganokuni.com/hiki/


追記*2010年の当ブログでは、造形大学でのペドロ・コスタの講義記事にびっくりするぐらいの反響をいただいたことに感謝しています。まさかこんな隅っこでやってるような当ブログに諏訪監督、 舩橋監督からコメントを寄せていただけるとは思ってもいませんでした。ありがとうございました。
http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20100728