『無謀な瞬間』(マックス・オフュルス/1949)


ラナ・ゴゴベリーゼの『転回』も見たかったけど最後まで見たらオフュルスに間に合わないことが発覚しシネマヴェーラの最終回へ。オフュルスのハリウッド作品。これが凄かった!ジョーン・ベネットの徒歩シーンを余さず撮り(二階へ上がる階段と通路が印象的)、ドアの開閉つなぎでショットを割るというのが基本。移動しながらジョーン・ベネットはチェーン・スモークをしていて、ポケットには煙草ケースが常備されている。この余さず徒歩シーンを撮るという試みが地理を表わす以外にも効いてくるのは、娘との口論の末転落死したチンピラの遺体(@浜辺)を母=ジョーン・ベネットがボートに乗せて隠蔽工作をするシーン。初めての体験なのに妙に手際が良いなとか機転が利くなとか、そういう物言いはここでは受け付けない。隠蔽工作をする過程を丁寧に描くことで、その後の水上ボートの一人ショット(3ショットくらい)の氷のように冷たいロングショットに、漂流する諦念にも似た人生の選択/運命が浮き上がる。


二転三転するサスペンス。脅迫する男は次第にジョーン・ベネットに恋心を抱き始める。ついに痺れを切らした男の冷酷な相棒がジョーン・ベネット宅に押し入るシーン。ジョーン・ベネットの前を横切る男と男の闘いの影が素晴らしい。「すべて警察に話すわ」と彼女。しかし男はジョーン・ベネットへの愛が本物だったことを証明するため相棒の死体を乗せた車で夜の町を疾走する。車の横転、その苛烈さ!留守中の夫からの電話に「すべて順調よ」と精一杯に繕うジョーン・ベネット、その苛烈さ!傑作。