『グッバイ・ベイビー』(ジョン・カーペンター/2006)


2010年以降、新作が続々と待機しているジョン・カーペンターのTV作品。あの美しい『世界の終り』に続く『グッバイ・ベイビー』。これを見てしまうと、かなり奇怪な形で健闘しているトビー・フーパーの『災厄の街』や、ジョー・ダンテらしいオチに思わずニヤリとしてしまう『男が女を殺すとき』も遠くに霞んでしまう。ちょっと比較にならないくらい素晴らしい作品。悪魔の子を孕んだ娘を取り返そうと中絶専門の隔離された産婦人科に乗り込む父ロン・パールマンの存在感が不気味すぎる。金網の向こう側に待機する(過去に問題を起こしたらしく出入り禁止の法的措置が下されている)車が鈍い輝きを放っている。この車の前後進と共に映画は物語は加速を始める。


銃を装備した息子たちと共に施設の強行突破を図るパールマン一味。その一方で堕胎を希望する娘の中絶手術が相互にカットバックされる。まずこの非常に理に適った緊張感溢れるカットバックに唸らされる。母体の急激な変化、悪魔の胎児が腹を突き上げ、皮膚は波を打つ。武装し抵抗する所長を捕まえたパールマン一味が、所長の足を広げさせ擬似中絶手術を施す描写は恐ろしすぎる。血の惨劇。いよいよ悪魔の胎児が生まれ、娘が下す決断と、悪魔の親の登場が、悲しみのブルーズを掻き鳴らす。人の子のブルーズならぬ、怪物のブルーズ。傑作!