『密輸業者たち』(リュック・ムレ/1968)


イーストウッドアンジェリーナ・ジョリーチェンジリング』がいよいよ明日から公開ということで予告編を見るにこれはちょっと軽い気持ちで触れては手痛い火傷を負ってしまうような恐ろしい緊張が走ってるというか、気が気でないです。






引き続き輸入DVDでリュック・ムレ。原題を『Les Contrebandières』。かのジャン=マリー・ストローブに「ゴダールが撮らなかった最高の映画」と云わしめた、これまた極めて独創的な作品。これまた女子2人組の物語。『ブリジットとブリジット』のラストシーンが挿入されるわで、前作との繋がりが一応あるのだけど(妹ブリジットのその後の物語)これは全く趣きの違う映画ですね。登山の映画。舞台はフランス〜スペイン間を跨ぐピレネー山脈。傾斜のキツイ山の岩肌を密輸業者である女子2人が時に足元をとられながらひたすらに登っていく。道中、人がギリギリ通れるぐらいの岩肌、小道で、国境警備団と組合の挟み撃ちに合うシーンが超ロングショットで撮られていて、この同一ショットがコミカルに何度も繰り返される。冒頭近く、ブリジットが投げ捨てた家財道具(衣服さえ投げ捨てる)の諸々が川を下って海まで流れ着く(流されるカセットレコーダーから音楽が流れる!)という一連の繋ぎがあるのだけど、それもやがて逆再生でまた上流へ戻っていくという、モノとヒトの流れ方の違いが興味深い。


ようやく険しい山を越えたフランチェスカとブリジットは各自ボートで川を下っていく。河岸を並走する仲間の男、このシーンがまた美しい。ボート漕ぎの女子2人を捉えるカメラも並走する。面白いのは彼女たちの動きがまるで制御されてないというか、そのようしか見えないところ。このシーンに限らず山肌での撮影や大胆に挿入される空撮などちょっとハラハラするような撮影が多くて、そこが生々しい一回性のドキュメントを生んでいる。あとロングショットの大胆な使い方は『そして人生は続く』や『オリーブの林をぬけて』(キアロスタミ)のラストショットなんかを思い出した。もうひとつ、岩から岩へ飛び移りながら踊るように下っていく男性のロングショットを見ながら、『ダージリン急行』(ウェス・アンダーソン)の3人が砂埃を上げながら全力ダッシュで斜面を下るショット思い出した。あのシーン、よいですよね。


個人的には何やらの銃撃戦(空爆音が混じる)を前に手鏡をチェックしながら身だしなみに余念のないフランチェスカの所作が好きですね。彼女は香水を振り撒く、後から追ってきた男性が岩肌の香りを確かめながら「シャネルの5番、フランチェスカの香水だ」と分かるシーンが素敵だ。