『SOLARIS』(濱口竜介/2007)

東京藝大馬車道校舎にて『PASSION』濱口監督の前作。現在馬車道校舎では研究発表の一環として<OPEN THEATER>部門で3期生の全作品とか卒業生が撮った新作などが無料開放されています。


http://www.fnm.geidai.ac.jp/download/opentheater2009.pdf(PDFファイル)


『SOLARIS』は濱口監督が一年生のときに”タルコフスキー、ソダーバーグのリ・リメイク”という無茶な課題として撮り上げた作品。とても面白かったです。濱口監督は本当に脚本が書ける人だなーと。非日常的な台詞を低く殺すような声で発する主人公と研究者のやりとりから俄然目が離せなくなるのは2日目の少女=ゲストの登場から。惑星ソラリスではホスト(主)の精神的外傷がゲスト(客=亡霊)を呼ぶ。ホストが眠っている間にゲストは現れ、たとえ赤い海に葬ろうと、何度でも蘇ってしまう。「しかしそれは殺人に似ていた」。ゲストを赤い海に葬った直後、主人公の背後で呟かれる、このナレーションのような台詞、声にハッとする。


「朝、起きて、パッと目が合ったとき、愛するということを決断する」


主人公の前に現れたのは19歳で自殺した元恋人。十字架のリストカットの跡が残っている。ゲストとの共存に悩み自殺した先輩研究者の残した3つのキーワード、「愛する」「殺す」「死ぬ」が徐々に効いてくる。主人公が「愛する殺す死ぬ」の順に読み上げるのに対して、怪物であるところの少女は「死ぬ殺す愛する」の逆さの順に読み上げる(「死なない殺さない愛さない人生なんてつまらない」と少女が語り歩くシーンが素晴らしい)。理知的であったはずの主人公と怪物であったはずの少女の未来への伏線、経路となろう、つまり未来は少女にこそ開かれる。


『PASSION』でも顕著だった視線でショットを繋ぐ会話劇は既に確立されていた(4人でテーブルを囲む会食シーン)。ところどころ予算ゆえのチープさも気になるものの(だからこそラストはあんな正面きった見せ方でよかったのかな?と思った。大胆不敵といえばそうなんだけど)、とても興味深い力作でした。