『カニバイシュ』(マノエル・デ・オリヴェイラ/1988)


ゴダールの新作『Socialisme』のスチールが以下のサイトに掲載されています。まだimdbにも載ってないし、ほとんど情報は出ていないようですが、地中海ロケであることと、2009年初頭に完成予定(てことはもう完成?)とのことです。今年のカンヌでお披露目だったりするんだろーか?これは楽しみですね!
http://www.vegafilm.com/vega-film/en/films/socialisme/images/

さて、現役バリバリで生誕100周年を迎えたどころか2009年は2本の新作が公開されるらしいオリヴェイラ、日本未公開の『クリストファー・コロンブスの謎』(2007)では夫婦揃って出演までしちゃってるというから凄い。昨年生誕100周年を記念したDVD−BOXも発売されたようで、これには『私の場合』(1986)〜『クリストファー・コロンブスの謎』までの21作品+特典ディスクが収録されているようです(英語字幕付き)。あと調べていて知ったのですが『アニキ・ボボ』(1942)って以前NHK−BSで放送されたのですね。『フランシスカ』『カニバイシュ』『過去と現在』と共に。勿論オリヴェイラはフィルムで見てナンボの作家だしDVDで見るのもどうよ?という気もありますが、録画した人、羨ましすぎです。



で、『カニバイシュ』をこちらはスペイン盤、無字幕のDVDで。冒頭の黒い高級車に乗った貴族が続々と晩餐会が行なわれる館に入っては市民(?)から拍手を浴びる(静かな夜に響く拍手の乾いた響きが実に不穏だ)反復に早速、誘惑/幻惑される。語り部の男性の横で無邪気にステップを踏みながらヴァイオリンを演奏する青白い顔をした青年が、まるで妖精か果ては天使の舞踏のような印象を与え、この天使はこちらの予感どおり、この悲劇/喜劇の誰とも関与せず、しかし決定的な事件の観察者として佇む。オペラ作品、しかし唄っている人と向こう側で踊っている人の間には、まるで防音ガラスでも挟まってるかのように、一切の共鳴が生まれない。墓場のような夜の森林で唄いあう夫婦の不気味さに圧倒されながら、ついに子爵の秘密が暴かれるシーンで2度目の仰天が待っている。まるで江戸川乱歩の『芋虫』のように手足のもげた子爵(特殊メイクもモゲ方もショッキング)が、暖炉の中で火にあぶられながらそれでも唄い続ける驚愕のシーン。次の瞬間、歪んだ鏡に青白い青年が映り、ヴァイオリンの演奏が始まる。そして3度目の仰天はカニバリズムが行なわれたあとに待っている大逆転の喜劇。ブニュエルが歓待されたかのような大団円にあっけにとられる。


追記*たぶんクラシック音楽に詳しければその見地で語ることも多い作品なのだと思います。複数の音楽がコラージュされて再びテーマに戻るような箇所がある。


ところでカニバリズムといえばエリザベス・テイラーの『去年の夏、突然に』(マンキウィッツ)。「27歳だが、43歳に見える」リズの鬼気迫る顔と野蛮な群集(事件の回想シーン)のオーバーラップ。精神病院の閉じ込められた群集の描写も強く印象に残る。