『汚れた血』(レオス・カラックス/1986)


ユーロスペースにて、ジュリエット・ビノシュティーチイン付き。整理番号あんまり早いほうじゃなかったのだけど、最前列、それもビノシュに手が届きそうな素晴らしい席が運良く空いていたので即決で座る。ヤバイ、ドギマギする!先日の日仏学院では気さくにファンと接するビノシュに大フィーバーになったと伝え聞いております。もちろん今日もチケットはソールドアウト。いよいよビノシュが出てきて劇場にシャッター音が一斉に響く。ええ、携帯のカメラで撮りましたとも。携帯カメラとはいえビノシュをフレームに収めている自分に軽い眩暈を起こしましたよ。司会を務めるのは石橋今日美さん。


レオス・カラックスとの出会い(「ジィーーと見ていた」というエピソードが如何にもカラックスぽい)を「一晩あっても話し足りないわ」と臆面なく語るビノシュ。ハイライトはユーロスペース代表堀越謙三氏を交えたトークでした。『汚れた血』で日本に初来日した際、熱烈な成瀬巳喜男ファンであるカラックスがビノシュを連れて高峰秀子に会いに行ったという話はファンの間ではよく知られた話ですが、当時まだ30代の若い堀越さんに大女優・高峰秀子を紹介できるだけのコネクションなどなかったわけで、、、という素敵なお話。世界中が小津、小津と騒ぎ始めた中、成瀬に熱狂してる若干26歳の青年監督に、なんてシネフィルな青年なんだ!と驚いたそうです。高峰秀子を交えて3人で食事に行った際、高峰秀子がフランス語で2人に料理の説明をした逸話とか。ビジネスクラスで行きたいというカラックスをヨソに「そんなお金はない」と2人をエコノミークラスで迎えた(未来のオスカー女優に!)という思い出話に、ビノシュが大笑いしていました。ビノシュ、最近の写真はさすがに過ぎ去った年月を感じさせるものが多かったのだけど、実物は肌もキレイで遥かに美しい女優さんでした。あのビノシュが目の前にいる!感謝感激感涙。もう今年はこれで終了でいいんじゃないだろーか?


さて、久々にスクリーンで見た”神話的作品”『汚れた血』はワンショットにおける情報量がとにかく常軌を逸していて、何気ない短いショットの中にアクロバティックなアイディアと様々な種類の光線が射し込んでいて、何度も見ているにも関わらずまた新たな発見の連続、頭を打ち抜かれてしまった気分です。ゴダール蓮實重彦氏のインタビューで「カラックスはショットを複雑に撮り過ぎている」と発言していたその意味は、充分に理解していたつもりなのですが、それでも、その発言を覆すほどに、刺激的に過ぎた。映画を構成する細胞のミクロなレベルの変異がこの作品を怪物的傑作にしている。スクリーンで見たことがない人はこの機会に見に行った方がよいよ、全然違うので。まぁ、カラックスの全作品は原体験に関わるというか生涯大切にしている作品群なので冷静に語れないです。前髪にピューと息を吹きかけるビノシュ、涙。。


「もし、今キミとすれ違ってしまったら、
 世界の全てとすれ違ってしまう。
 そんな人生ってあるか。」


汚れた血 [DVD]

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