『マスク』(クロード・シャブロル/1987)


東京藝術大学馬車道校舎にて。横浜日仏シネクラブ5周年、英語字幕、上映後に青山真治氏のトーク付き。視聴者参加番組「全ての人たちに幸せを」(老いた男女が歌で競いあう)がピンクの安っぽいテレビモニターに映る。フィリップ・ノワレはこの番組の司会者。意図的な安っぽさ=メディア批判が全編を貫いている。この安っぽさは”脱臼”とか”脱構築”とかじゃなくて、あからさまに陳腐な古典の引用も含んでいる。ルノワールのテーブルの下とか。「ヒッチコック劇場のテーマ」まで流れる始末。シャブロル映画のパターンを自身で踏襲したような、ベテランの余裕たっぷりの優雅なサスペンス、そこに若干の枝葉的なズラシが紛れ込んでいるといった趣き。得意の”館モノ”ですしね。シャブロル的悪意がグルングルンに舞って前衛的ですらある『破局』などに比べるとかなり希薄な作品ではある。しかしこの全編を覆う希薄さは決して嫌いではない。希薄、とはいえカメラに向かって「くそ喰らえ!」で終わるんですけどね。フリッツ・ラング的なメディア批判(『激怒』とか)を現代に置き換え、もっと俗物的なパロディ=安っぽさの中で”小さな悪党”として展開する、という解説。


上映後の大寺氏・青山氏のトーク(放談)はいろいろと面白かった。中でも興味深かったのは、90年代の末期『いとこ同士』などヌーベルヴァーグの作品がリヴァイヴァル上映された折、今更『いとこ同士』から始めなきゃならないのか!?と斜めに構えてしまい若い人に何も言わなかったことを今は後悔している、という青山さんの発言。「サイコ2割問題」のお話。先鋭的な作品を紹介するだけでは意味がない、『いとこ同士』を見ていない若い人もちゃんと丁寧に拾っていかなければならない、と仰っていたのが強く心に響きました。


「サイコ2割問題」についてはSomeCameRunningさんによる以下の記事に詳しい。
http://d.hatena.ne.jp/SomeCameRunning/20080217