『侵入者』(クレール・ドゥニ/2004)


輸入DVDでクレール・ドゥニ『侵入者』。「悪魔は――あなたの内側に隠れている――あなたの影に――あなたの心臓に」。暗闇に覆われた森、カテリーナ・ゴルベワがこちらに向けて不吉な予言を語りかける(オフの声)冒頭。この映画で描かれているのは心臓の交換/侵入、魂の交換/侵入の可能性、又は不可能性。しかし実際に「侵入」されてしまったのは、この映画を見てしまった「私」の方で、まさしく心臓抜き、常時喉元に刃物を突きつけられているかのような画面に渦巻く暴力の波紋と言おうか、冷え切った余韻と言おうか、悪魔憑きは、しばらく抜けそうにない。しかしなんという色の海でしょう。ある時は透き通った緑、ある時は不吉なこと極まりない漆黒の海。屋内の暗闇の中に光る衣装の赤は脈打つ血管のようだ。絶句。強烈な映画ですね。嗚呼、怖ろしいや。


雪原の中、ゴルベワの跨る馬に引き摺られるミシェル・シュボール。雪の中に放り出された血まみれの死体はポエジーに還元されることもなく、ただ放り出された死体としてのみ其処に在る。心臓を咥える犬、そしてハイエナのような犬たちの声!アパルトマンの2つ窓を向かい側から行ったり来たりするパンショット(双方の窓に赤ん坊がいる)は「分身」というテーマを強く意識させる。この分身という概念は父と子の間に、全くの他人同士(話し合いの結果、適当にでっち上げられた「息子」)の間に、ついには犬を飼う男とその犬を任された女(ベアトリス・ダル、素晴らしい!)の間にも生まれる。血縁すら超えたところで、その血/心臓は侵入を果たし、幾度とない拒絶反応を起こす。まるで体の内側と外側、両方から二重に突いては押し潰さんとする暴力のようだ、、。縦に切り裂かれた腹部、息子の心臓を手に入れたミシェル・シュボールは一体何処へと航路をとるのだろう。


この作品、国際的にどういった評価を得たんでしょうね?リスクを恐れない凄まじい傑作だと思います。絶句、完全に言葉を失った後、マスターピース!と呟く。シネスコ画面で見たい。