『アンナと過ごした4日間』(イエジー・スコリモフスキー/2008)


一日に現代映画の凄まじい作品を2本見てしまうと心身に打撃を与えすぎてしまうだろうことは予想してた。いくら休日がとれたとはいえ、これでキム・ギヨンまで押さえてたら絶対にモタないなと判断し、スコリモフスキーの新作の為に気力体力を温存する。で、そうして正解だった。これはとても集中力のいる作品。スゴイ。空恐ろしい。しかもフィルムじゃないと暗すぎて一体何が起きてるのか分からないよ。上映前の挨拶&ティーチイン、伝説の映画作家であるスコリモフスキーには最大限の敬意を持って拍手しました。とはいえ御本人は「サウンドデザインはどのように?」との観客の質問に「私には耳がある、したがって音が聴こえる、それだけだ」という、Oh!スコリモフスキー!な余裕綽綽のお答え。その不敵な御姿同様、益々好きになりました。


しかしこのような凄まじい作品を前にどんな言葉を連ねればいいのか?いくら監督がメタファーだよと言っても、フェードイン/アウトで河を流れる牛の死体はその唯物性ゆえにあまりに恐ろしく、千切れた片手のオブジェとしての不気味さは、後半の伏線になっているとはいえ、それ単体で映画そのものの不気味さを助長している。アンナに気付かれぬよう4日間も毎日部屋に潜り込む主人公、夜中にヘリコプターが来るシーンの奇襲ともいえるサスペンスのとてつもなさ、ただ愛だ。と強い気持ちで告白する主人公の、壁に向かって愛を告白しているかのような厳しさ。時系列さえ奇妙に歪んだまま、物語は急速にラストに向かう。アンナの飼う猫の名はトーチカ。そうだ、この廃墟の山のような沈みきった街は戦時下の世界なのだろう。ゆえに主人公はアンナの部屋から時計だけを盗んだ。革命を起こすために!?「耐え切れるか?」とこちらに問うているような空恐ろしい作品です。スゴ過ぎる。そして素晴らしい。


10/21 17:05 - 19:09 (開場16:45)
六本木会場 [TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen1]
http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=1