2016年ベストシネマ


新年あけましておめでとうございます。さて、2016年ベスト。2016年は20本選ぶの楽勝だなと余裕こいていたら、むしろ削るのに苦労しました。ここ数年で一番映画を見れなかった一年でしたが、それでもとても充実したラインナップだったと思います。初めて正確には映画作品としては撮られていない作品をリストに入れました。しかしこれが映画でないなら、いままで自分が体験してきたものは映画ではなかった、と言えるような作品です。2016年は、個人的にはプライベートで酷い年にしてしまって、早く終わんないかなーくらいに思っていた一年だったのですが(笑)、それはそれ。2017年は失った分を取り戻すところから始めようと思います。という決意も新たにさせてくれる、以下、刺激的な映画たち。


1.『ノクトラマ/夜行少年たち』(ベルトラン・ボネロ)
Nocturama/Bertrand Bonello


2.『クリーピー』(黒沢清
Creepy/Kiyoshi Kurosawa


3.『ストレンジャー・シングス』(マット&ロス・ダファー)
Stranger Things/Matt Duffer,Ross Duffer


4.『皆さま、ごきげんよう』(オタール・イオセリアーニ
Chant d´hiver/Otar Iosseliani


5.『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』(ティム・バートン
Miss Peregrine´s Home for Peculiar Children/Tim Burton


6.『エイト・デイズ・ア・ウィーク』(ロン・ハワード
The Beatles:Eight Days a Week-The Touring Years/Ron Howard


7.『キャロル』(トッド・ヘインズ
Carol/Todd Haynes


8.『素晴らしきボッカッチョ』(パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ
Maraviglioso Boccaccio/Paolo Taviani,Vittorio Taviani


9.『ピートと秘密の友達』(デヴィッド・ロウリー)
Pete´s Dragon/David Lowery


10.『ネオン・デーモン』(ニコラス・ウィンディング・レフン
The Neon Demon/Nicolas Winding Refn


11.『ハドソン川の奇跡』(クリント・イーストウッド
Sully/Clint Eastwood


12.『Certain Women』(ケリー・ライヒャルト)
Certain Women/Kelly Reichardt


13.『ミッドナイト・スペシャル』(ジェフ・ニコルズ
Midnight Special/Jeff Nicols


14.『Les Filles Au Moyen Age』(ユベール・ヴィエル)
Les Filles Au Moyen Age/Hubert Viel


15.『ザ・ギフト』(ジョエル・エドガートン
The Gift/Joel Edgerton


16.『The Fits』(アナ・ローズ・ホルマー)
The Fits/Anna Rose Holmer


17.『凱里ブルース』(ビー・ガン)
Kaili Blues/Gan Bi


18.『エブリバディ・ウォンツ・サム!』(リチャード・リンクレイター
Everybody Wants Some!!/Richard Linklater


19.『ドント・ブリーズ』(フェデ・アルバレス
Don´t Breathe/Fede Alvarez


20.『裸足の季節』(ドゥニズ・ガムゼ・エルグヴァン)
Mustang/Deniz Gamze Erguven


1位はベルトラン・ボネロ。『ノクトラマ』を見てから、脳内でファクトリー・フロアの音楽をこの映画のサウンドトラックしちゃってます。地下鉄で聴くと合うんだよね。LGBT映画の傑作『ティレジア』のデカダン〜『サンローラン』のデカダンに至るまで、ボネロの描くデカダンスの趣きは大きな変還を遂げていて、作品を重ねるごとにどんどん「遅延された自殺」にフォーカスされている。若者たちによるテロの実行よりも、退屈しのぎの遊戯で多くの時間を遅延させる『ノクトラマ』はその到達点ともいえる。長い長い無慈悲なラストシーンは、あまりにも胸が締めつけられた。『クリーピー』には、たまらず久々に2日連続で映画館に通ったほど熱狂してしまった。この映画では、間合いで「侵入」が決まる。



Nocturama/Bertrand Bonello

Les Filles Au Moyen Age/Hubert Viel


未公開作について。ローラ・ダーンミシェル・ウィリアムズクリステン・スチュワートの3編で構成されたケリー・ライヒャルトの新作は、特にクリステン編の素晴らしさに打たれる。女二人がアメリカの舗道を馬にまたがり進む。静かな夜に馬の足音だけが聞こえるそのショットの素晴らしさときたら!ジェフ・ニコルズのタイトルだけでたまらない気分にさせる『ミッドナイト・スペシャル』は、ジェフ・ニコルズならではのストロング・スタイルと、デタラメさが競合する傑作。夜の車が素晴らしい。なんていったってミッドナイト・スペシャルだからね!ユベール・ヴィエルの新作は絵本のようにキュートな作品。ユベール・ヴィエルの作品は現代フランス映画の中でかなり異質だと思う。マイケル・ロンズデールがこどもたちを導く案内役、というところがまたいいね。『The Fits』はボクシング映画がダンス映画になってホラー映画になってSF映画にもなるという、とても面白い作品。演出と競合するカメラがとにかく素晴らしい。『凱里ブルース』は、逆に、長回しの中カメラが暴走するショットもあるけど、それはご愛嬌。ユーモアがあるからね。笑いました。それより劇中でスクリーンに投影される貨物列車のシーンなど、忘れがたいショットに溢れていた。


2016年に公開された作品で、『ブルーに生まれついて』(ロバート・バドロー)、『イット・フォローズ』(デヴィッド・ロバート・ミッチェル)、『山河ノスタルジア』(ジャ・ジャンクー)、『ヤング・アダルト・ニューヨーク』(ノア・バームバック)は昨年のリストに入れたので対象外にしました。昨年のベストは以下にリンクを貼っておきます。


http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20160101



Le secret de la chambre noire/Kiyoshi Kurosawa

Metamorphoses/Christophe Honore

Kaze ni Nureta Onna/Akihiko Shiota

Diamond Island/Davy Chou


リストに入れたくて最後まで迷ったのが、『ダゲレオタイプの女』(黒沢清)、『ヘイトフル・エイト』(クエンティン・タランティーノ)、『あなた自身とあなたのこと』(ホン・サンス)、『追憶の森』(ガス・ヴァン・サント)、『風に濡れた女』(塩田明彦)、『変身物語』(クリストフ・オノレ)、『Marguerite et Julien』(ヴァレリー・ドンゼッリ)、『この世界の片隅に』(片渕須直)、『ダイアモンド・アイランド』(ダヴィ・チュウ)、『ふたりの友人』(ルイ・ガレル)、どの作品も後年、リストに入れなかったことを後悔しそうなほど好きな作品でした。



In This Corner of the World/Sunao Katabuchi


主演女優賞は大復活のウィノナ・ライダー!と言いたいところだけど、『キャロル』の二人、ケイト・ブランシェットルーニー・マーラ以外考えられません。ルーニー・マーラレオス・カラックスの新作『アネット』に出演。デヴィッド・ロウリー&ケイシー・アフレックと再び組む新作が今年のサンダンスでお披露目と、快進撃にもほどがある。素晴らしいとしかいいようがない。『キャロル』の全身がピンクに火照ったあの体を君は見たか。『ロスト・バケーション』(ジャウマ・コレット=セラ)のカモメは2016年のベストアニマル。映画としてもひたすら「待機」の時間をブレイク・ライブリーの艶で描く意欲作。クラゲのシーンはすごく新しい!



実は『未来よ、こんにちは』(ミア・ハンセン=ラヴ)を既に見ているのだけど、2017年に劇場で見たときのためにとっておきます(笑)。『未来よ、こんにちは』のラストショットは、今年見たどの映画のラストショットより美しい、とびきりのものでした。来たるべき、未来。




L´avenir/Mia Hansen-Love


旧作は見逃していたトッド・ヘインズの『ミルドレッド・ピアース』とケリー・ライヒャルトのとめどなく美しい処女作『リバー・オブ・グラス』。5時間半以上にも及ぶ『ミルドレッド・ピアース』はトッド・ヘインズの最高傑作だと思う。『キャロル』はこの作品なしに生まれ得ない。個人的にトッド・ヘインズとケリー・ライヒャルトのフィルモグラフィーを処女作から最新作まで追ってみたのも豊かな体験でした。『リバー・オブ・グラス』は処女作でしか撮れない作品。こんなにキラキラ輝いていて、こんなに危なっかしく暴力的な作品はなかなかない。ケリー・ライヒャルトは学生時代からの友人トッド・ヘインズと共闘しながら(彼女の作品をプロデュースしている)、ガス・ヴァン・サントゴッドファーザーと呼び、まったく作風の違うウェス・アンダーソンに共感を寄せる。個人的にはミア・ワシコウスカにケリー・ライヒャルト作品に出てほしいのだけど、その内ミアの方からアプローチがありそう。おそらく実現します。みんな寄ってくるんだよね。アメリカの役者さんたちの素晴らしいところです。



Mildred Pierce/Todd Haynes

River of Grass/Kelly Reichardt


ところで、いま一番待ち焦がれてるのは前作がとびきり素晴らしかったアルベルト・セラの新作!そしてアナ・ビラーの新作も猛烈に見たい!



La mort de Louis XIV/Albert Serra

Love Witch/Anna Biller


最後に。デヴィッド・ボウイに始まり、2016年は尋常じゃないくらい訃報の続いた年で、マドンナのジョージ・マイケルへの追悼の言葉「2016年なんて、消え去ってしまえ!」に激しく共感する一年でした。ジャック・リヴェットアッバス・キアロスタミ。とんでも級の二人の映画作家がこの世からいなくなった。サム・スミスジョージ・マイケルへの言葉に倣ってこの言葉を捧げたい。「あなたに賛同していなければ、今の自分はなかった」。誰かに心を奪われるということは、その人に賛同することです。いい言葉だなと思った。ジャック・リヴェットとジュリエット・ベルト。この写真は自分にとって本当に特別な写真です。



Jacques Rivette & Juliet Berto

Abbas Kiarostami