『境界線』(クロード・シャブロル/1966)


クロード・シャブロルジーン・セバーグの組んだ『コリントへの道』(1967)の軽妙洒脱ぶりについては以前当ブログでも取り上げたが、これはその前年に制作された打って変わってレジスタンスを描いた重厚なシリアス路線の作品。1941年に時代設定されたこの作品は、ドイツ占領下にある地区とフランス領土との境界線を舞台にしている。境界線は大きな河で区切られていて、厳重な監視に置かれた橋が架かっている。冒頭のただならぬ銃撃(ここで早速シャブロルらしいのは、双眼鏡という”カメラアイ”を使うところ)をはじめ、この急な流れの河が出てくるシーンの恐ろしさたるや。夜の河の絶望的なまでの厳しさに震える。ボートに当てられた照明の、闇を照らす過酷な美しさ。この作品ではレジスタンスの集合と離散のアクションが手際よくスピード感に溢れた演出で描かれる。それらはあまりの手際のよさ故に、感情を捨てざるを得ない冷徹な運動に映る。『境界線』が冬の映画だということは重要に思える。そしてジーン・セバーグという、いつでもどこか表情に不安を隠し持っている”宿命の女優”がこれを演じているということは、ことさら重要に思える。セバーグがボートを見送るときの顔が焼きついて離れない。『境界線』では人と人とが離れるその瞬間が、もう二度と出会うことのできない覚悟を滲ませている。レジスタンスの離散の痛々しさが強く胸を締めつける。