『フランス』(セルジュ・ボゾン/2007)


審査委員長イザベル・ユペールミヒャエル・ハネケ(『白いリボン』)が長い抱擁を交わすカンヌ国際映画祭授賞式の様子を生中継で見ながら、去年のローラン・カンテ(『The Class』)のような子供たちが一斉に壇上に上がって無邪気に喜びを分かち合うお祭り騒ぎの光景が恋しくなって、でも主演女優賞を獲得したシャルロット・ゲンズブール(『アンチ・クライスト』ラース・フォン・トリアーの新作)が偉大な御両親への感謝をスピーチし始めたときはちょっとだけグッときてしまった。公式上映ではその過激な性描写、暴力描写に凄まじいブーイングだったらしく(このままでは一般公開できないって、一体どれほど?!)、シャルロット、迷走?大丈夫かいな?と思ったのだけど、オメデトウ、BGMに2006年の愛聴盤『5:55』を流しながらこれを書いています。


輸入DVDで一部熱狂的な支持を得ているセルジュ・ボゾン監督作を2本。この『フランス』は2007年度カイエ・デュ・シネマ批評家選出ベスト5に選ばれたり、批評家スティーヴ・エリクソンが昨年4つ星(マスターピース)の評価を与えたりで相当気になっていた作品。一度日仏学院で上映されましたね。カンヌ映画祭絡みでいえば2007年の監督週間上映作品。主演女優のシルヴィー・テステューは間もなく『サガン -悲しみよ こんにちは-』が日本公開されます。


この作品の設定年齢である17歳の少女は勿論のこと、ときには30歳の女性としても、さらにいえば女性としても男性としても通じてしまいそうなシルヴィー・テステューが持つ中性的なルックスが素晴らしい(とても可愛らしい女性です、念の為)。兵士たちに混ぎれ込んでは検問を突破するシーンや、傷の手当てで服を脱がされるまで女性だと気付かれないシーンなど、その独特のルックスが如何なく活かされている。



丘の上に立つ無数の女性が一斉にこちら側に駆け下りてくる素晴らしく開放的なロングショットから幕を開けるこの作品は、シルヴィー・テステューと兵士たちが延々と森を彷徨する不可思議な旅に多くの時間が割かれる。「世界で一人ぼっち」だと語るシルヴィー・テステューや兵士たちの素性はほとんど明かされず、舞台がこの世界とあの異界を繋ぐ「森」であることから、この作品を一種の童話と私は読み取った。「付いて来るな」と兵士に粗末に扱われるシルヴィー・テステューの抵抗が面白い。吊り橋から唐突に飛び降りては無抵抗に河に流される様や、夜、月の光が淀んだ雲で隠されると体が消えてしまうとか。当てのない彷徨の合間合間に兵士たちがバンジョーや様々な民族楽器を持ち寄っては合唱(美声!)を聴かせるシーンが挿入される。洞窟での演奏シーン(画像参照。ピアノも何故か用意されてる!)はこの作品のハイライトといっていい、感動的な場面だ。


終わりなき彷徨の果て、雪原に倒れこんだ疲労困憊の一味の前にカミーユ(シルヴィー・テステュー)の生死の行方や存在すら不明だった夫フランソワ(ギョーム・ドパルデュー!)が蜃気楼のような霞のかかったロングショットで向こう側からやって来る。美しいキスシーンのあと、やがて兵士たちが旅の終わりであることを告げる。久方ぶりの逢瀬を交わした夜、星空に向かって兵士たちの名前を一人づつ丁寧に読みあげるギョーム・ドパルデューに、兵士たちが亡霊であったことを知る。


セルジュ・ボゾン、突き抜けてユニークな作家です。日本公開切望!