『南へ向かう女たち』(ローラン・カンテ/2005)


第62回カンヌ国際映画祭開幕!ということで昨年のパルムドール『The Class』(日本公開は来年ですか!?このタイムラグって何故なのさ???)を撮ったローラン・カンテ2005年の作品。シネフィルイマジカ録画、HDに録りためていたものを。70年代のハイチ、50歳前後の富と力を持て余すアメリカから来た白人女性が、現地の”しなやか”で”やさしい”青年(黒人)と肉体的精神的に戯れることで人種間/階級間にある断絶が浮き彫りされる、といった内容。現地警官が捨て台詞のように残す「観光客は殺されない」という言葉が決定的に響くのは、この言葉がこの作品の語り部とでもいうべきハイチの歴史を背負った男性による、あくまで通訳を介した言葉、本当に警官の残した言葉なのかどうか分からないところにある。またレストランでの演奏シーンでは激しく盛り上がるリズムで徐々にトランス状態で踊り狂う白人女性が描かれるのだけど、このトランス状態からの帰還を促す(リズムを止めるように演奏者に頼む)のが現地の青年であるところにも決定的な壁の存在が暗示されているかのようだ。この美しい青年は白人女性の皆から求愛される。白人女性のボス的存在シャーロット・ランブリング(相変わらず凄味のある視線)曰く「束縛してはいけない。彼はみなのものよ」。その一方でストリートでは黒人による黒人差別が描かれる。常に心穏やかに白人女性と接する青年は「ハーレム」という一言にだけ過敏な反応(「何て言った?」と丁寧に再度尋ねる)をみせる。


楽園のような浜辺に押し寄せる夜の白い波が不吉だ。昼の浜辺で男女は無邪気な悪戯を繰り返し、夜の浜辺で男女は終末的な愛を交わす。黒人青年が着ている服を脱ぐと、その肌は夜の黒味に塗れて画面から消えてしまう。”観光客”の手の届かないところで起きる惨劇。浜辺に捨てられた無惨な2つの死体。ここで愛の姿と死の姿が夜の黒味によって手を結ぶ。傍に不吉に打ち寄せる白い波、このショットが秀逸だ。静かな波の残響と、再度「南へ向かう女たち」を並べたところで幕が閉じられる。