『イカレた一夜』(ジャック・ドワイヨン/2001)


日仏学院にてゼロ年代ドワイヨンの超傑作。男+女の緊迫した恋愛劇”2”に、行きずりの女が加わりゲームが始まる”3”、そして思いがけない新参者(タフガイ)も加わり事態がより混迷してしまう”5”になったところで、またそれぞれに解体されていくという物語。ホテルのフロントマンがルー・ドワイヨンに向けて放つ「奇数がお好きで?」という台詞が興味深い。『ラ・ピラート』の少女と絡むホテルのフロントマン(黒人)が魅力的だったように、事件の当事者たちから一歩離れた地点にいる彼も又、滅法魅力的に描かれている(下心と紳士的態度のちょうど間で)。


ホテルのスウィートルームに着いたあとの”3”の物語が実に素晴らしい。ここでも男と女、女と女といった組み合わせで”3”は分離されたりまた戻ったりの繰り返しなのだが、”2”の時の比較的親密な会話が、”3”になった途端ゲーム/いたずらに展開し彼らの親密さは尽く「失敗」(ギョーム・ソレルの台詞)に終わる。その男女3人組がベッドで入り乱れる、というより、じゃれ合うシーンがなんとも可笑しく感動的だった(彼らは肉体関係を結ばない!)。このベッドでルー・ドワイヨンとキャロリーヌ・デュセイがキスをするシーンは、『ラ・ピラート』のマルーシュカ・デートメルスの乳房に跪くジェーン・バーキンもかくや、という素晴らしい出来映え。顔と顔の距離が異様に近いドワイヨンのアップがここぞとばかり挿入される。


”5”での入り乱れる混迷の間に、ルー・ドワイヨンとキャロリーヌ・デュセイがシャンパンを開けるシーンからは、もう泣きっ放しだった。「わたしの目は空っぽよ」と自らを称すイカレた女=ルー・ドワイヨンが初めて流す涙と、それを祝福するかのようなシャンパンの組み合わせ。そしてなにより、冒頭のカフェで、ふとした沈黙の内にギョーム・ソレルにキスしたくなったルー・ドワイヨンという、まるで人を無時間に還すかのような素敵な伏線がここにきて効いてくる。物語の最後、彼らは別れの際に何一つ言葉を交わさない(あれだけオシャベリだったにも関わらず!)。沈黙と沈黙の間に視線のみで愛を語り合う2人に泣かされる。そして別れの後、ホテルの窓際に立つルー・ドワイヨンに「先立たれた最愛の人を思って、いつも窓際で泣いていた母」のイメージが重なる。しかし彼女の顔は微笑んでいたのだった。ここに円環からの超克を見る。素晴らしい!


それにしてもギョーム・ソレル、いい男だ。