『プレジャー・パーティー』(クロード・シャブロル/1975)


輸入DVDでクロード・シャブロル『プレジャー・パーティー』。一応邦題は『お楽しみ』らしいのだけど、あまりにも微妙すぎるタイトルなので英題にしておく。シャブロルの放つショットとショットの間に生まれるポエジーが紋切型から微妙にズラされているのは、近年の『石の微笑』を見ても感じることだけど、『プレジャー・パーティー』はより巧妙により不穏な形でクリシェを外しているという印象を受ける。妻の情事の声を隣部屋から子供(とても小さな女の子)の寝顔と共に聞き入る夫ポール・ジェゴフ。翌朝、台所で妻に朝食を作るジェゴフのコップの水がアップにされ、こちらの経験則で知る不吉な予感(裏を返せば安心)に襲われるわけだけど、コップに挿すのは毒薬ではなく一輪の薔薇の花なのだ。この薔薇の花が再び登場するのが終盤の不穏極まる(!)殺人シーンという、物語のより深いところへ、ひっそりと深遠な木霊を響かせるような伏線の張り方。この異様なる伏線のポエジーに気づいたとき、劇伴の流麗なピアノと唐突な演奏の中断は共に不吉な災いを誘う調べとなる。


異様な速さで進む夫婦の寝室における秒針の音、性機能の不全に陥ったジェゴフの心臓に耳を当てながら「軍隊の行進のようだわ」と呟く愛人の台詞(とても不穏で美しいポエジー)、少女が眠るまでの安心のためにカウントする数字。娘と出掛けた蝋人形館に展示された悪夢のようなランドリュー(青髭)の人形(シャブロル版『青髭』を想起させる公園のベンチとその特異な容姿)。それらが伏線と呼ぶには実存的すぎる妻(ポール・ジェゴフの当時の妻ダニエル・ジェゴフ)の浮気後の帰宅の顔(恐いくらい無表情な蒼白さ)の際立ち方と相俟って悪夢の如く展開される。究極に実存的な際立ちは、ジェゴフの墓場における殺人シーンでしょう。ちょっとこのような殺人へ向かう人間の生々しい身体的な衝動の描写というのは他にない。正直引いてしまったよ。こんな残酷極まるシーンにおいても、風に揺れる黒衣のポエジーが美しいわけだけど。


劇中に出てくる動物園の熊の如く鉄格子の奥に入れられたジェゴフ。このときジェゴフの物語は見世物化=劇場化する。脚本家ポール・ジェゴフの悲劇的な実人生についてはwikiなどで調べてみてください。非常に危険な映画。


補足*SomeCameRunningさんからの情報によると、当初この役はトランティニャンや役者さんに演じてもらう予定だったのだそうです。なんという因果なのでしょう。