『創造物』(アニエス・ヴァルダ/1966)


日仏学院にて『アニエスの浜辺』公開記念*特集「アニエス・ ヴァルダの世界」2日目。たとえばヴァルダの代表作『幸福』(1965)が苦手という人がいたら、今回の特集でアニエス・ヴァルダという作家へのイメージを一旦リセットした方がよいと思う。ヌーヴェルヴァーグセーヌ左岸派ジャック・ドゥミウーマンリブも一旦忘れて、まず映画作家として捉え直してみようよと。まあ、それくらい日本未公開作の滅法面白いこと!なんと独創的でたらんこと!早速1本目『創造物』(英語字幕付き)は、ミシェル・ピコリカトリーヌ・ドヌーブの共演という、これが紹介されていないのは何故に!?という、豪華キャストによる異形の傑作。


ピコリとドヌーブの乗った車が猛スピードで駆け抜け、事故を起こす。白浜に打ち寄せる波、打ち上げられた蟹。ヴァルダの他の作品と同様「浜辺」の景色に忘れがたいイメージが宿る。激突事故以後、ピコリの額には傷痕が残る。ドヌーブは爆走するピコリに注意を促して以降、一言も口を開かない。ピコリとの会話は全てメモで交わされる。夫婦の物語の一方で小説の物語が平行して動く。物語のエピソードはクレーンキャッチャーのような「蟹」によって選ばれる。ここで「モノ=物語を拾う」というテーマが浮上するのですが、それは一旦置いておいて、黒猫の死体を拾っては妙なタイミングで激昂して近隣住民を追いかけ回すピコリの様が、赤フィルターを用いた異世界で描かれる。黒猫の死体を土に埋める際ピコリは物語の”しるし”のようなモノが猫に貼り付いているのを発見する。この”しるし”が至るところに落ちている。どこかメルヘンチックな趣きがあります。ピコリは馬や猫と真顔で会話しては、アドバイスを受けるくらいで。


映画内のスクリーンで展開される荒唐無稽な複数の物語(金庫破り→札束放火→殺し合いの陽気な男2人のエピソードが好きですね)の前でチェスの試合が行なわれている。チェスの盤上にはそれぞれの登場人物が乗っていて、ピコリと対戦相手がこの駒を動かす(これSFちっくな凄い画なんです)。駒を摘む手と蟹の手が重なる。この作品の最後に選ばれた物語、ゲーム崩壊後の世界に、新たな命の声が響き渡る。「物語の誕生」がこうしたプロセスを経て導き出される様が感動的。キュートな傑作。


ちなみに撮影にウィリアム・ルプシャンスキーの名が。以下の作品にも関わってます。