『不貞の女』(クロード・シャブロル/69’)

東京芸大馬車道校舎にて。全てを呑みこんだステファーヌ・オードランが一切の悲喜を拒絶したかのような何とも言えない表情で階段を降りるショットから家族離散に至るラストまで、一連の流れが素晴らしい。それまで物静かに”事”を進めていたミシェル・ブーケが最後に放つ台詞「I love you like mad」(英語字幕)には痺れた。ちなみにステファーヌ・オードランは最も好きな女優の一人(故に昨年のエドワード・ヤン『タイペイ・ストーリー』上映前のトークショー蓮實重彦氏が披露したエピソード「ヤンのお兄さんはステファーヌ・オードランが好き」には意外性よりも共感を覚えた)で、その「むしろ享楽の徒でありたいかのような」デカダンな佇まいにやはり惹かれてしまう。


大寺眞輔氏の講演ではシャブロルの繊細な画面設計について自前のDVDで詳細な解説がなされる。「一切の無駄を削ぎ落とした映画」ということなのだけど、正直に言うと最近リヴェットばかり見てきたせいか、無性に無駄が恋しくなってしまった。『いとこ同志』におけるジャン=クロード・ブリアリ、『気のいい女たち』のプールの場面でハシャギまくるイカれた男たち、『女鹿』におけるステファーヌ・オードラン、『沈黙の女』におけるイザベル・ユペール、とシャブロルの映画では「悪意のない犯罪者」たちが、あれよあれよと無邪気にその場の秩序を壊していく様にドキマギしてきたのだけど、この映画ではそうゆう揺さぶりもあまり感じられず。いい映画には間違いないんですけど。