『チチカット・フォーリーズ』『高校』『法と秩序』(フレデリック・ワイズマン/67’68’69’米)

アテネフランセで「現存する最も重要なドキュメンタリー作家」ことフレデリック・ワイズマンを3本。


『チチカット・フォーリーズ』は上映後、体が硬直して身動きが取れなくなるようなモノ凄いフィルムだった。矯正院に収容された犯罪者たちの心身の喪失は、まるでアフリカという故郷を失い、強制的に送り込まれたアメリカ大陸で”奴隷という名のアイデンティティー”すら奪われ、生きながらにして二度目の死を迎えたブルースメンのガナリ声の如く(彼らブルースメンはギター片手に24時間でも歌い続けたと伝えられる)、統合不全に陥っている。体に合わない薬を与え続けるカウンセラーに「私のやり方が間違っているなら、私の顔に唾を吐いてくれ」と無茶なことを言われる男は、この映画でもっとも正当なことを主張する(かのように見える)唯一の健常者/犯罪者だ。収容者は院内で全裸生活を強制され、次第に心と体の尊厳を失っていく。患者の鼻腔から太いチューブを体内に押し込む医者(?)は、煙草を片手に酒の話をしている始末だ(ここから正視し難いほど痛いシーンが続く)。さて、この映画でもっとも惹きつけられたのは収容所の悲惨ではなく、収容所に響く音だった。背景のテレビモニターが映すジャズソングとはまるで似つかない歌をダミ声で歌うお爺ちゃん。収容部屋で気が触れたように、足でじたばた不定形なリズムをつくる患者。中庭でトロンボーンを吹く黒人収容者を見て、アルバート・アイラー(alto.Saxですが)が生まれたアメリカの風景を考える。映画は収容者たちが唄う”Show must go on”で楽しく悲痛に幕を閉じる。。。


『高校』は打って変わって、こんなことを言っていいのか分からないけど、青春映画の傑作ともいえる様な作品でした。性教育の講義で男子高校生たちが笑いと歓声で盛り上がる様や、大っきな風船ボールを30人くらいで追う体育の授業風景。いろいろありつつも、みんなでマーチと、感謝状を読みながら女校長の「いい学校です」で締めくくるラスト。『法と秩序』は迂闊にも途中ウトウトしてしまったので感想は控えます。

*追記 そうだ全くその通りだ。『エレファント』は思いっきし『高校』だ。あの人物の背後から移動撮影の廊下。なるほどね。