『アメリカン・ギャングスター』(リドリー・スコット/07’米)

小まめに映りこむニュース映像が単に時間経過を表すだけではなく、背景にあるアメリカの歴史(ベトナム反戦集会の模様、ジョンソン辞めちまえ。とのシュプレヒコールニクソン就任→モハメド・アリの”政治”→ベトナム撤退)を律儀に伝えている。娯楽の中で「アメリカ」を真っ向から描こうとする大きな映画≠物語。


冒頭の人体発火&容赦ない発砲で掴みはオッケー。サム&デイヴの「Hold on, I'm comin'」が流れる中アフロヘアーのデンゼル・ワシントンがぬすっと浮かび上がるカットに、ショットの輝き的なドキドキというよりも単純にビジュアル的な胸騒ぎを起こす。アリの試合(ラッセル・クロウ曰く「今日の試合は政治だ」)にゴージャスな毛皮のコートで観戦する姿も同じく。RZAやコモン(デンゼル・ワシントンの弟分役、激カッコいいさ!)が出演してたり、捜査班に黒人が含まれているところも含めて、この映画に登場する黒人たちは、それはもう最高にカッコいい。それは野田努さんがよく言うところの「ハリウッドに回収されたストリート文化」のイメージなのかもしれないし、実際にそうだと思うけれど、そこらへんはJay−Z御大がこの映画にインスパイアされてアルバムを作ったということで、フォローしてもらいましょう。B−BOYというかHip−Hopやソウルミュージックに少しでも親しんだ人には必見の映画になっているもの。ボビー・ウーマックの「110番街交差点」は『ジャッキー・ブラウン』(タランティーノ)に続いての使用。それとハーレム街の朽ち欠けた巨大アパートの外観(仰角で大きな画)がすごくよかったな。デンゼル・ワシントンのフィルムへの収まり方は、弟トニー・スコットの画面には敵わないものの、相変わらず素晴らしいです。