『サブウェイ123 激突』(トニー・スコット/2009)


地元シネコンレイトにて。おおお!なんというクロスカッティングの鬼!この作品の9割はデンゼル・ワシントンジョン・トラボルタのクロスカッティング(又は切り返し)のみで出来ていて、しかもその内の7割近くの時間、2人は移動すらしない、指令室と地下鉄、ずーーーッと同じ箱に入ったままテンションを持続、ウロウロするだけなのだよ。トニスコらしいサイキックな画面に幻惑される前に、現在このような単純極まりない構造で105分語りきれる作家が一体どれくらいいるだろーか?これはちょっと思いつかないくらい凄いことだと思う。途切れることのない緊迫感の持続に悶絶、これはもう馬鹿になるより他ないのではなかろーか。



一方で細かい伏線が実に素晴らしい。人質の一人が抱えるノートPC、ビデオチャットによるお茶の間への生中継、大人と子供の小便、然り。または空軍の指輪、この指輪の青年のとる行動や、一度「告解室」(トラボルタによる実に見事な言葉だ!)で市長としての正義感を問われたはずの胡散臭いNY市長とのラストでの距離に、トニー・スコットアメリカという実験の国への清濁すら飲み込んだ希望を見る、といったら大袈裟か。トラボルタとワシントンの執拗な切り返しから生まれる鏡像関係と同じく、胡散臭い市長もまた2人と変わらぬ鏡像関係にあるのだろう。なにしろアメリカは実験の国なのだ。ハリウッド映画が本当に偉いなーと思うのは、このNY市長がマスコミの前で会見をするとき車の中で「髪型は大丈夫か?」とか「私はジュリアーニみたいに大統領選に出馬したりしない」とか際どい風刺を平然と台詞にできちゃうところ。それにしてもトラボルタが実に楽しそうに演技しててこちらは愉快痛快ですよ。これは絶対にスクリーンで!悶絶必至の傑作。