『ダンボ』(ティム・バートン/2019)

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パーフェクトフィルム!多幸感が全力疾走する絵巻のようなオープニングからティム・バートンが紡いでみせるのは、『私の20世紀』(イルディコー・エニェディ)ならぬ、『ティム・バートンの20世紀』だ。大陸の地図をオーバーラップさせながら汽車が前へ前へどんどん進んでいく絵巻のようなオープニングは、目的地へ向かって前進すると同時に、走馬灯のように記憶を全力で巻き戻しにかかる。この華麗なる絵巻の行き着くところが、戦場から帰還し片腕を失った父親の胸に飛び込む娘、という構図に収まるとき、私たちはこの映画作家の感情的な出発点を知る。ティム・バートンはいつだって癒えることのない傷口と共に生きていくフィルムを作ってきた。耳の大きいことでいじめられるダンボがティム・バートン的な主題の導きにあることを改めて知るのだ。


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絵巻の行き着く先にあるこのサーカス団は、ティム・バートンが長年こだわってきたフェデリコ・フェリーニの祝祭空間をノスタルジーとして彼方に置きつつ、トッド・ブラウニング『フリークス』の空間をその中心に沿えている。ここにはバズビー・バークレーの異形を思い起こさせるダンサーの配置があり、エヴァ・グリーン演じるコレットはやがて、それが必然であるかのようにルイーズ・ブルックスのような髪型になり、ダンボと飛翔する。『ミス・ペレグリン』で更なる新しさを追求したレイ・ハリーハウゼンへの21世紀的オマージュは、そのダンスシーン自体がオリジナル『ダンボ』を踏襲していることもあり、全く持って思いがけない感動を呼ぶ。そう、このサーカス空間こそがティム・バートンの20世紀なのであり、そこに自己言及的に表わされるのが『バットマン・リターンズ』や『マーズ・アタック』にも出てきた屋上の大統領室のような空間、そしてテーマパークなのだ。ただ、ティム・バートンは自らの20世紀を走馬灯のように駆け巡るだけで『ダンボ』を終わらせることをよしとはしない。


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Miss Peregrine's Home for Peculiar Children
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8 1/2
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Ray Harryhausen's Skeleton
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Dumbo
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Louise Brooks


美しいシャボンのダンスをその瞳に収めたダンボの潤んだ目には、美しさへの憧憬と共にどこか諦めのような孤独な渇きがその瞳に宿っている。この瞳の演出に関してウェス・アンダーソンの『犬ヶ島』との共振を見る。思い起こすのは『犬ヶ島』のセリフ、「友達にはなれないけど、大好きだ」。ダンボの旅の行き着いた先でダンボが仲間たちに示す挨拶は、大先輩ティム・バートンからのウェス・アンダーソンへのウィンク返しだろう。大切なパートナーのいない世界で生きていくこと。ティム・バートンが『ダンボ』で描くのは、その力強い宣言であり、だからこそ、大切なパートナーを失った世界でもサーカスは続くのだ。いや、失ったからこそ僕らはこのパーティーを続けなければならない。手回しのフィルムに残った君の記憶だけを乗せて。ショウ・マスト・ゴー・オン!!大傑作!


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