『12階』(エリック・クー/1997)

シンガポール映画祭@シネマート六本木にてエリック・クー作品。エリック・クーといえば、昨年のカンヌのコンペティション部門で上映された『私のマジック』(東京国際映画祭でも上映)がカイエに取り上げられていたり、日仏学院で上映された『一緒にいて』(2005)への一部高い評価もあったりで、気になっていた作家です。『12階』は長編第2作目にあたる作品。公団マンションの12階、”アメリカ”の記号で溢れた部屋に住む青年が大量の血を吐く。肥満のオバサンが投身自殺を図ろう現場に青年は出くわすが、死にきれない決意のできない女性を傍目に、青年は自らの身を投げてしまう。この作品は自殺した青年の霊が俯瞰する「12階」の住人の物語といえる。


肥満のオバサンはカエルのような顔をした母に、いつ終わるでもない文句で罵られている(「デブ、ブス」とか、中でも酷いのは「お前はオシッコの臭いがする」とか。それはもう四六時中、頭痛になりそうなほど矢継ぎ早に)。母の文句に耳を傾けるでもなく、その間淡々と家事をこなすオバサンの行為だけをカメラはアップでとらえる。12階の住人の間ではそれぞれの部屋で大変な諍いが起きていて、それらはどれも滑稽。エリック・クーの演出は何か特別なことをするでもなく、この滑稽な演技の時間に嬉々として身を任せているように見える。画面には顔と顔と仕草と止まらないお喋りばかり。公団マンションをとらえるロングはいかにもアジア的なショット。でもこの単純さが何故か飽きさせない。中でも紅一点のベリーショートな髪の妹(頭の堅い兄を持つ)の存在感が大きい。ラストにほんのりとした奇跡を呼ぶ佳作。でもフィルムで見たかったなー。