『小さな山のまわりで』(ジャック・リヴェット/2009)


東京国際映画祭にてジャック・リヴェット。いつになく早い制作のインターバルと85分(!)というリヴェットのフィルモグラフィーにおいて例外的にコンパクトな上映時間を持つ新作。嬉しいのは現代劇というところ。合間合間に挿まれる寸劇のシーンはともかく、全体的にかなりサクッと撮ったような趣きすらある。あのリヴェットが!とやや拍子を抜かれつつ、例によって映画と舞台の境界線が崩れる刺激的なショットがある。手前で些細な諍いを演じる男女4人、奥に雑貨店の街並み、同一フレームで大胆に暗転を繰り返すショット。再度、世界は劇場へ。


過去に致命的な事件によって小さな山の如く”動かざる人”となったジェーン・バーキンの周りを旋回するようにイタリア人(セルジオ・カステリット)を中心に、元来、移動・放浪、絶えず動き回ることで生計を立てるサーカス団一味の寸劇、身振りが炸裂する。36通りの風景。ジェーン・バーキンのトラウマ=自ら視界の前にかざす一枚のペーパー、は他者によってスリリングに破れる。この音が忘れられない。もしも「動き続けることで出会いが生まれる」のなら、人の身振りこそが出会いを生むならば、身近な素材でありながら、これほど映画と密接な関わりを持つ主題もないかもしれない。


ただ正直に告白するとリヴェットは長〜い上映時間が徐々に無時間に変わっていくような、ドブドブと映画の流れに浸れる作品の方が好みなのだなー。ジュリ・マリー・パルメンティエのキュートな存在感に痺れるからこそ、ラストショットに痺れるからこそ、月の女と太陽の女を慕う気持ちがより恋しくなった。ただリヴェットが”新古典主義期”を経て、もう一歩新たなフェーズへと踏み出したことは本当にワクワクさせられる。