『ラ・ピラート』(ジャック・ドワイヨン/1984)

上映前セルジュ・トゥビアナ氏の紹介によりドワイヨン監督の舞台挨拶。この作品がカンヌで貶されたことを今では誇りに思うのだとか。何故ならユスターシュブレッソンもアントニオーニもカンヌでボロクソに言われたけど素晴らしい作品だったじゃないか、、とのこと。


『ラ・ピラート』の冒頭シーンは本当に奇跡的な画力(エヂカラ)だと思う。車のライトで照らされた舗道(この時点で既に最高のカッコよさなのだが)での複数男女のもつれ合い→運転中の車のボンネットに乗った少女がフロントガラス越しに可愛いポーズをとるという一連の流れ。早速声に出さない声で「スゲェ」と呟く。気の触れたジェーン・バーキンがナイフをあちこちに刺しながら取り乱す場面、これは明らかに命を削った演技。本当に気がフレてしまわないだろうか。20テイク、30テイクなんて普通だというドワイヨンの現場を想像して思わずゾッとする。バーキン命削りすぎです。


上映後梅本洋一氏の司会でドワイヨン監督、井口奈己監督(『人のセックスを笑うな』)のトーク。話は演出(主に役者へのアプローチ方法)について。ドワイヨンにとって「1テイク目は犬にでも食わせろ。2テイク目は猫にでもあげてしまえ」なんだとか。今まで5テイク以内のカットを使ったことがない、というこれはスゴイ話。井口監督が1テイク目のフレッシュさを求めるのに対し(これは90年代以降もっとも聴く意見ですよねって勝手に思ってるのですが)、20、30テイクなんて当たり前の男、ドワイヨンは役者の「疲労」をこそ信じているとの自論を展開(ただし当然ながら「疲労」で留まってはいけないとのこと)。インプロビゼーションな演出は殆どしないけど、5テイク目と6テイク目は全く違うものでなければならない。それはテイクを重ねる度に「呼吸」ではなく映画の「息吹」として、カメラの前に「自由」が生まれるのを信じているのだというお話(注*これは決して”ドワイヨン語”などではなく、会場では抽象的ながらも比較的分かり易い語り口だったのですが、ちょっと説明する力がないです、、。ご勘弁)。どんなこともユーモアを交えながら非常に真摯な姿勢で語るドワイヨン氏に感激しました。


ドワイヨン監督、雰囲気あってカッコいいです。でもよくよく考えてみたらあのジェーン・バーキンの元夫なのだから、いい男で当然ですよね。