『驟雨』(成瀬巳喜男/1956)


『雪崩』も『驟雨』も役者陣が圧倒的に素晴らしいのだけど、この作品の明るくて脆い妻=原節子も最高にファンタスティックだった。一番好きなのは「話がある」と夫に呼び止められた原節子が、にも関わらず台所の流しでご飯を啜る場面。「お腹が空いて泣きたくなっちゃったの」。冒頭の姪っ子香川京子を交えた3人のやりとりから既に可笑しいのだけど(そして何処までも噛合わない地区の会合!)、男女の力関係が対称的な隣の恐妻夫婦とのエピソードで、夫婦交換のようなシーンがあって面白い。世田谷の商店街(素敵です)を歩く妻2人→途中で家路に着く夫との3人歩き→家の前で隣の夫と遭遇の流れに痺れた。一見何でもないシーンのようだけど一連の構図と動きと編集がスゴク的確でよいのです。縦に走るノラ犬もよいね。そして「話は”ある”のではなく”する”ものです」とは至極名言!!香川京子も頭の中で整理がついてないにも関わらずとりあえず「話す」ことで理解していく。思考を辿るより先に言葉があるのだよね。ラストの夫婦で遊ぶ紙風船には涙が止まらなかった。なんて詩的なラストだろうか。心が感動して喜んでいる。驟雨とは勿論劇中に起こる突然の雨のことでもあるのだけれど、何の前触れもない紙風船の登場のことでもあります。大傑作ッ。成瀬、スゲェ。


追記*この紙風船って『サッドヴァケイション』におけるシャボン玉?、、、のような気がしないでもない。