『ゴーストワールド』論 アウトロ

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Ghost World

CINEMOREさんへの記事のアウトロ。

cinemore.jp

 

ソーラ・バーチの言葉。

 

「今にして思えば、とても親しみやすいものでも、将来の成功につながるものでもありませんでした、、、。しかし、(『ゴーストワールド』のイーニドは)私が感じていたことの大部分であり、イーニドがそれを発散することを許してくれたのです。だからこそ、この映画は私にとって個人的な映画なのです。」

 

「人生で何をしたいのかはよく分からないけど、何になりたくないのかは分かっている。」

 

テリー・ツワイゴフの言葉。

 

「この作品を作ったときに、時代を超えて、どの時代にも通用するような、アメリカのどの場所を舞台にしてもいいような作品にしたいと思っていました。しかし、それはあまりにもLA的でした。いたるところにヤシの木があるので。私はただ、自分が世界をどのように見ているかを描きたかっただけなのです。」

 

「スカーレットを起用するにあたり、みんなを説得するのに苦労したことを覚えています。彼女は『のら猫の日記』や『モンタナの風に抱かれて』で見たことがあり、とても素晴らしいと思っていました。スタジオ側はもっと大きな名前を求めていて、30歳前後の年配の女優を何人も提案してきました。私は、この作品が最終的に現実味を帯びるためには、実際のティーンエイジャーである女優を起用する必要があると考えました。」

 

「二人の役を差別化したいと考えていた私は、イーニド役に彼女(ソーラ・バーチ)を起用することに慎重になっていました。しかし、ソーラは本当に粘り強く、献身的にこの役を本当に望んでいて、私を追い続けました。彼女はイーニドを演じるために実際に20キロも体重を増やしたのです。」

 

「"30年代や40年代に戻らなければ良い映画は見つからない主義”だと人々に誤解されています。そんなことはありません。私は50年代から現在までの多くの映画を愛しています。『アダプテーション』は私のお気に入りの映画のひとつです。『めまい』、『サンセット大通り』、『アスファルト・ジャングル』、『博士の異常な愛情』、『キング・オブ・コメディ』、『ゴッドファーザー』、『ビリディアナ』、『影の軍隊』、『現金に手を出すな』、『穴』、『見知らぬ乗客』。まだまだありますよ。」

 

「クライテリオンと組んだ理由のひとつは、クライテリオンの古いフランス映画が好きだからです。それが唯一の理由です。ジャック・ベッケルジャン=ピエール・メルヴィルの作品をよく見ています。『現金に手を出すな』とかね。いつも人々にこれらの映画を紹介しています。」

 

『フィッシュマンズ』

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立川シネマシティ極音上映で、『フィッシュマンズ』。

 

佐藤伸治が亡くなった日のことを、よく覚えている。スペースシャワーTVで字幕速報で流れてきて、その日は一日中「ゆらめき In The Air」のPVが流れていた。

 

「ゆらめき In The Air」を新宿タワレコの試聴機で聴いたときのことも、よく覚えている。凄いなと思うのと同時に、佐藤伸治のことがすごく心配になったのを。佐藤伸治が亡くなる三か月前のことだ。

 

フィッシュマンズの音楽は、そのときの瞬間、瞬間の景色と分かちがたく結びついていて、年月を経たいまも、そのときの気持ちや時代の空気、目の前にあった風景がパッとよみがえってくる。

 

映画の中で、下北沢の路上に座り込む佐藤伸治は、頼りない天使であり野良猫のようだった。あの頃、自分も世田谷に住んでいて、同じ景色を見て、同じ空気を吸っていたのだなあ、、。

 

フィッシュマンズの音楽ではなく、フィッシュマンズの音楽を好きな自分を批判的に見る必要があった。完全に依存していたのだ。

 

後年、菊地成孔さんに珈琲を奢ってもらう機会があって、そのとき「フィッシュマンズを好きだった人たちは一体どこへ行ってしまったのだろう?」という話題になった。

 

菊地さんがフィッシュマンズを初めて知ったのは朝の天気予報でPVが流れていたときのことだと言っていた。「清志郎の新曲、バックトラックかっけーな」と思ったら、フィッシュマンズというバンドで、佐藤伸治を一目見て「うわ、カリスマだ」と思ったのだという。佐藤伸治の恋人でもあったマリマリと仕事をしていた菊地さんは、「あんな可愛い子を残して罪なやつだよ」とも言っていた。

 

そこで交わした会話の詳細はともかく、フィッシュマンズを好きな人の持つ弱さや依存、その宗教性について、フィッシュマンズを高く評価しつつ(特にライブの素晴らしさ)話してくれたのを思い出す。痛いけどよく分かる内容だった。「こっち来んな!笑」って言われたけど(笑)。

 

映画では、崩壊していくバンドの証言まで、きっちり描かれている。思っていたとおりではあるのだけど、茂木さんがファンクラブの会報に書かれた佐藤伸治の言葉に、このままいなくなってしまうのではないかと危機を感じたと証言するシーンは辛い。すごく言葉を選んで話しているけど。でも茂木さんほど近くにいてもそうだったのか、、、と。「ゆらめき~」の楽曲から感じる佐藤伸治の孤立や、バンドのデッドエンド感は、音像そのままの世界だったのだなと。

 

とはいえ、ほとんど封印状態にしていたフィッシュマンズと、こうやって再会できたのは嬉しかった。ワイキキ・ビーチ・スタジオという実験工房。そこで繰り広げられていた実験の数々。あんなのほとんど奇跡じゃないか。くたばる前にそっと消えたいねと歌った天才音楽家の肖像。今日は延々とフィッシュマンズを聴くことにした。