ペペ・トルメント・アスカラール@恵比寿リキッドルーム

ハイヒールで足の甲を派手に踏まれる痛み(経験あり。あの強烈な痛みは忘れられない。貫通したかと思った)を覚悟しつつ、踊る気満々で出掛けたのだけど既にフロアはギュウギュウ。踊るスペースがない。仕方ないので海草系の如くゆらめきダンスに終始するも、ステージは熱かった。素晴らしかったね。DCPRG時代の菊地成孔氏の各パートへの指揮者のようなキュー出しにも痺れた(知人がモノマネ上手かった)のだけど、今日の菊地さんは理性を持った獣の如くステージでリズムにのっていた。菊地さんの躍動する獣のような動作はパーカッションの大儀見氏の細かい関節の動きまで全てがリズムに奉仕しているという超人間的な動作と完全にリフレクションしていて、ライブならではの「くずれ」までペペの音楽の持つエレガン=デカダンな包容力で新鮮な魅力に変えていた。『New York Hell Sonic Ballet』におけるデヴィッド・リンチ的なアメリカの記憶をゴダールによる編集で紡いだような林正子さん(オペラ歌手)との共演曲が素晴らしかった。モノクロフィルムの中、女優の死体が徐々に朽ちていくような悲しみと永遠の美しさが同居している。本家よりカッコよいのではないかと思える「Killing Time」のカヴァー、フロア対応ペペの殺傷力は前回のリキッドでも体験済みなのだけど改めて凄いなと。ステージ上の獣のように躍動する菊地さんは、もはや存在そのものが消え「音楽」そのものになったかのようだった。


アンコール前最後に演奏された「81/2のテーマ」。この名カヴァーを聴いて涙ぐんでしまうのは、何処か死の直前、記憶の走馬灯のようにいままでの恋の(人生の)多幸感と喪失が甦るからで、死んでしまうこと、終わってしまうこと、すべて忘れ去られてしまうこと、を意識させる、つまり小津の映画から受けるそれと非常に似通っているという感慨を個人的には持っている。だからこそアンコールで演奏された「時さえ忘れて」がどこまでも甘美に響く。それは音楽=人生そのものの”時さえ忘れる”ような体験だった。全てはマッサラになってしまう。そのことを恐れてはいけない。泣けた。


追記*のだめ効果でクラシックはジャズの100倍の売り上げなんだとか、のだめオーケストラがペペのメンバーに入ってるオドロキとか。ところで「15歳ですけどね」には爆笑させてもらいました。オシャレ美女率よりもオシャレ男子率の多さにビビッた。みんなカッコいいね。楽しかった。また行くよー。