『スペル』(サム・ライミ/2009)


地元シネコンレイトにてサム・ライミの新作。サム・ライミ版『エクソシスト』とでもいうべき悪魔憑きの物語。ヒロインとその彼氏の容姿をはじめ、最新技術を除いてしまえば70年代ホラー映画の趣きさえ感じる。世界でも指折りの演出家たるサム・ライミによる「風」や「影」の、これでもか!の上質な演出は、この際本作の主役ではない。「トムとジェリー」の如くリズミカルでスラップスティックスプラッターシーンさえも微笑ましい豪華な客演に過ぎない。『スペル』を爽快な傑作たらしめているのは原題の通り、ヒロインが”ドラッグ”される瞬間の演出がハンパないからでしょう。悪魔の忍び寄る窓の外へ恐怖のまなざしを向けるヒロインを、3つか4つのショットに分けてリズミカルに接近していくシーン、魔女の館のような老婆の家、パーティのような葬式へと雪崩込むように誘われるヒロイン、ヒロインは視線と身体を常に”引きずられる”。瞳に焼きつくのは悪魔のダンス!ヒロインの引きずられた末、降霊会シーンの多幸感すら誘おう爽快さといったら!(勿論、恐〜い作品なんですけどね)


正直途中までは「風」や「影」の第一級の演出に触れつつ「まぁ、こんなもんかね」と思っていたし(クドイくらいだしね)、ブロンドのヒロインがナオミ・ワッツとかキルスティン・ダンストだったらなーとか勝手なことを思っていたのだけど(あのクラスの女優にこれを演らせるのはムリなことが徐々に判明する)、最終的にライミが正しかった。まさか劇的な効果音さえ登場人物を苦しめるノイズとなるとは。眩暈を起こすほど美しい泥の海。ひとつひとつの細かい演出さえも地獄へドラッグされる爽快な作品。リスペクト!