『よく知りもしないくせに』(ホン・サンス/2009)


スコリモ当日券に平日の朝7時から行列!?という異常事態な東京国際映画祭にて、初ホン・サンス。心地よい風が吹く。かつて「分か〜り合えやしない〜ってことだけを〜分かり合うのさ〜」と唄ったのは、フリッパーズ・ギターですが、人生におけるダラダラ/ウジウジとした時間と、ときに軽薄ともいえる人と人との崩れそうな繋がりを、どこまでもアッケラカンと肯定してくれるような、やさしい(けど、ちょっぴり淋しい)潮風が吹いている。ベッドに横たわる男女、昔の恋人が不意に「問題はいつも後回し、死ぬまでの後回し」と言葉を漏らすとき、真理のような格言が放たれるとき、軽薄な愛の言葉がポンポンと宙に放たれるとき、言葉は相手の心をすり抜け、行方知れずの風の中でこっそりと舞い続ける。全ての言葉は回収を拒む。「よく知りもしないくせに!」


ドラマ性に欠けた面白くなりそうもない設定なのに心地よいダラダラ感が癖になる。また登場人物の言葉の空回りが証左するホン・サンスの知性に脱帽した。飲みの席で生徒に「人生における最も重要なことは何ですか?」と質問された映画監督(主人公)の真摯な回答が、聞いた側からスルーされ、いつの間にか謎の腕相撲合戦が始まるシーンに爆笑した。際どい関係に陥る男女の事件が全然ギスギスしない。人と人の関係がとてもおおらかなのだよね。浜辺の風、肯定の風が、とてもおおらか。


鑑賞後、初めて石田純一が偉大に思えた。ホン・サンス、もっと見てみよう。