『パンドラの匣』(富永昌敬/2009)


六本木から新宿に移動して待望の『パンドラの匣』。川上未映子主演。こちらは『TOCHKA』と両極端というか振れ幅が思いっきり逆方向に振れた趣き。対照性が際立つというか、よい選択をしたなと。『パンドラの匣』に関しては敢えて「音楽映画」と呼びたい。バスでうたた寝する川上未映子の美しい横顔に菊地成孔の音楽(スキャット)が乗るタイトルバックから鳥肌が立つ。「やっとるか」「やっとるぞ」「がんばれよ」「よしきた」。健康道場の面々が挨拶代わりに交わす決まり文句はとてもリズミカル。健康道場に響き渡る女子たちの奏でる「オルレアンの少女」のあんまりな多幸感に涙。断じて画面が音楽に負けてるとかそうゆうことを言いたいのではなく、皮肉なつもりは一切ないのだけど、改めて、音楽って凄い力なんだなと思った。パードン木村による整音が素晴らしい。


パンドラの匣』の人とカメラの動きにはどこかミュージカルめいたものを感じる。装飾された美しい音楽に呼応するようにクルクルと回る女の子たちは、実際に音楽と同調することこそないものの、音楽に反応しているかのような動きに思える。窓越しに健康摩擦を捉えた横移動撮影然り。ちょっとあり得ないくらいキラキラしたキャスト陣。最も快活に動き回る仲里依紗と主人公染谷将太が布団部屋で親密な近さに迫るシーンは明滅する照明と相俟ってエロティックですらある。この二人の顔と顔が接近するシーンは、カットを割ることもなく、カメラがゆらりくらりと二人を捉える。あたかもカメラ自身が喜んでいるかのような多幸感が魅力的。仲里依紗の声にエフェクトをかけるところも面白い。さて、キャスト陣の中でベストアクトを挙げるなら仲里依紗ということになるかもしれないけど、個人的には窪塚洋介を大プッシュしたい。窪塚君はやっぱスターなのだよ(顔、小っちゃ!)。あの悲劇のような幸福のような美しいラストは窪塚洋介の眼差し抜きには成立しないように思われる。


ひょっとすると富永監督への期待はもっと高いところにあるのかもしれないけど(日本のウェス・アンダーソンになってとか)、とても面白い作品だった。大満足。