『しんぼる』(松本人志/2009)


東京国際映画祭ラインナップ決定。まださらッとしか見てないけど思わず仰け反ったのはリヴェットの新作があるからさ!エリア・スレイマンキアロスタミ!スコリモ特集はDVD全部持ってるよーとかそうゆう問題ではなくフィルムで見れる(だよね?)ことに歓喜。他、カルロス・レイガダス特集ですか。さてさて、去年のホセ・ルイス・ゲリンのような発見はあるのか!?というところを出来るだけ情報を集めて注視していきたいところ。昨年も『世界の現状』とかアブデラティフ・ケシッシュが見れなかったこともありスケジュール組むのに一苦労しそう。わー楽しみ。
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地元シネコンにて松本人志第2回監督作品『しんぼる』。前作『大日本人』に関してはツマラナイという立場なのですが、そのツマラナサは、松本人志が余力を残しつつなんだか適度に面白い、ということがツマラナイに至ったわけで、言うまでもなくあれよりワーストな日本映画なんて山のようにあるでしょう。『大日本人』を見て同時に思ったのは松本人志の演出力はなかなか侮れないな、ということで、『しんぼる』のメキシコ篇を見ても、いやはや実に磨きがかっているなーと。壮大なロングショットで車がこちらに向かってくるタイトルバック(グッド!)から、デコボコ道の運転車内、物言わずズレた佇まいが素晴らしい覆面レスラーの食事、子供たちの集合と離散、プロレスの技のキマり具合を誤魔化さず見せる等、メキシコ篇は言ってしまえば優秀な演出家の仕事じゃないか。


メキシコ篇に並走する密室劇篇。松本人志のファンタズムに爆笑と戦慄を覚えてきた人間からすれば、松本と密室(無空間的)の組み合わせにはノスタルジーさえ覚えるかもしれない。これは多く指摘されているような『CUBE』のイタダキではないと思われる。真っ白い壁に無数に浮き上がる「しんぼる」なるものからの一方的な授かり物が理不尽の連鎖を呼ぶというシチュエーション劇=コント。この密室劇は、自分が食べるものは勝手に親が決める口唇期・肛門期の状態だとか、権力から突きつけられる理不尽な注文の数々だとか、「密室=胎内」が想起させるいろいろな未熟の状態(第1劇は「修行」と名付けられている)に置き換えられる。松本人志が幽閉という危機的状況に陥りつつも「しんぼる」から与えられた道具で「脱出=遊戯」をする様は、なんて可愛いらしい、コドモのような表情じゃないか、とさえ思わせる。


「実践篇」までは『大日本人』より画面もカッチリしててなかなか面白いなぁと思いながら見ていたのだけど、ラストのラストでこう来るか〜と。しかし納得できないのは着地点だけというわけではなく、これは『大日本人』のときにも思ったことなのだけど、松本映画がいかに外部との接続のメタファーを散りばめていようと、劇中の「松本人志=世界のズレ」と呼ぶに充分な説得力がないのだよね。もっとも私が確たる「世界のズレ」を認識しているなんてありえない!なので肯定派の意見も聞いてみたいところ。




追記1*CHRONICLE OF A PASSIONの映画批評家ティーヴ・エリクソンが『大日本人』に3つ星(***=Pretty good but highly flawed)を与えていたことや、アメリカでの別角度からの受け入れられ方もニュースになりましたよね。



追記2*上映決定記念に以下リヴェット新作『小さな山のまわりで』のポスター。