『ダゲール街の人々』(アニエス・ヴァルダ/1976)

こちらはダゲール街の一部の地区を追ったドキュメンタリー。これも珠玉の傑作でしたね。ドラキュラ伯爵のように不敵な笑みでマントを広げる男性が冒頭に出てくる。この作品でまず面白いのはこのようなユーモアたっぷりの、バカバカしいモンタージュでしょう。ドラキュラ伯爵はこの町のマジシャンで、ダゲール街の人々の「職業」が一通り語られたあと、街の人々が一同に会してこのマジシャンの手品を見守っているシーンに移る。刃物が腕を貫通して血だらけの手品、マジシャンが腕を拭った次にモンタージュされるのが、肉屋の親父の仕事後の手の拭い→様々な種類の包丁が並べられている→伯母さんが刃物を見ている、という繋ぎがブラックなユーモアで面白い。この作品ではダゲール街の人々の「職業」や夫婦の「出会い」、そして人々の「夢」とくっきりした構成で語られるのだけど、とりわけ老夫婦の姿が被写体として圧倒的だった。ヴァルダとルプシャンスキーの興味は明らかにこの夫婦、やや痴呆にさしかかった妻へと向けられている。この仲睦まじい夫婦が肉屋に来るエピソードだけで泣けてしまった。マジシャンは街の人々に語りかける。「眠れよ、眠れ。眠られよ」。老夫婦が街を歩き扉の中へ入っていく。お互いに何を言うでもなく愛と愛と愛と愛だけに包まれた静かな生活。この愛が永遠に続くようにゆっくり眠られよ。祈る。