『ヘルブレイン』(モンテ・ヘルマン/1989)

モンテ・ヘルマンは本作から『Stanley's Girlfriend』(『デス・ルーム』に収録)まで映画作家としては17年間の沈黙を強いられる。なんてこった。この企画物を60〜70年代の途方もない傑作群と比べてしまうのは酷だし、いくらヘルマン作品といえどマスターピースと呼ぶことには無理がある。とはいえ決してつまらない作品というわけではない。剥き出しになった脳が透明の御椀のようなケースで包まれている怪物(リッキー)の内面と「接続」できる目の不自由な超能力者ローラの「交流」が悲劇を呼ぶ。冒頭の何処までも同じ景色が続きそうな白壁の迷宮(怪物の内面世界)がよい。科学者による実験から逃亡した怪物リッキー。車のヘッドライトに照らされた路面に反射する鈍い光と、画面に重なるドライバーの歌(「We wish a merry Christmas」)の組み合わせが不吉だ。闘いの末、警察に保護されるローラの「メリークリスマス」という台詞に続き、オーバーラップで出現する怪物リッキーが「ハッピー・ニューイヤー」と、2人はリレーのように言葉を繋ぐ。人間と怪物によるデュエットが霊歌のように空に響く。